内容説明
国家や法という伝統、さらに人間の本質まで破壊した全体主義への道筋とシステムを描いた不朽の大著。最新の研究を反映し読みやすくなった新版刊行。全3巻。
目次
第1章 反ユダヤ主義と常識
第2章 ユダヤ人と国民国家(解放の曖昧さとユダヤ人の御用銀行家;プロイセンの反ユダヤ主義からドイツにおける最初の反ユダヤ主義政党まで;左翼の反ユダヤ主義;黄金の安定期)
第3章 ユダヤ人と社会(例外ユダヤ人;ベンジャミン・ディズレイリの政治的生涯;フォブール・サン=ジェルマン)
第4章 ドレフュス事件(ユダヤ人と第三共和国;軍・聖職者対共和国;民衆とモッブ;大いなる和解)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
226
国民国家の解体から帝国主義への移行に際して反ユダヤ主義の果たした役割とは? 19世紀後半、経済成長を遂げるヨーロッパ社会にあって、無用の富を蓄え非ユダヤに同化しつつあったユダヤ人は政治的な寄生集団と見なされた。本書はそうした状況全般に触れつつ、独や墺で反ユダヤ主義が国家と対立し政党に発展する経緯、また英や仏の同化ユダヤ人、さらにドレフュス事件が投げかけた政治的問題点を論じている。以前プルーストの小説で読んだ仏の政治や社交界に対する辛辣な筆致が面白かった。啓蒙書としてだけでなく、柔軟な批判精神に胸がすく本。2021/10/17
Shintaro
65
難解で2年越しの読書となった。反ユダヤ主義はドイツのみならず19世紀ヨーロッパで広く普及した思想だった。オーストリア・ハンガリー帝国やフランスで。特にフランスを断罪している。フランス第三共和政は烏合の衆で、ユダヤ人政商の腐敗は著しく(パナマ運河疑獄)そこをナチス・ドイツのプロパガンダにつけこまれ、脆弱な国家であったと。また戦うカトリックであるイエズス会がユダヤ人差別のレトリックを完成し、ヒトラーらはその大部分を取り入れた。ナチスは突然変異ではなく、ヨーロッパの文化を受け継ぐ嫡子だとアーレントはとらえる。2018/01/03
ケイトKATE
32
20世紀を代表する思想家、ハンナ・アーレントによる歴史上最悪の政治体制である全体主義とは何かを考察した大著。第1巻はアーレントの出自であるユダヤ人と反ユダヤ主義の原因を探っている。反ユダヤ主義が顕著になったのは国民国家が形成された19世紀である。それまでユダヤ人は金融業で成功し、君主や貴族に経済面で支援する見返りとして、自分たちを保証してもらっていた。ところが、国民国家においてユダヤ人は常によそ者であるのに加え、経済面で裕福なため民衆からの嫉妬と憎しみの対象となってしまったことを指摘している。2020/11/02
いとう・しんご singoito2
11
最近、軽めの本を読んでたせいか、読み始めた途端、「ホンモノ」の濃密さと重厚さにズッキュン!って感じでした。本巻は「反ユダヤ主義」と題されているが、ユダヤ人に対しても歯に物着せぬ観察はさすが。最後の「第4章 ドレフュス事件」における筆の冴えは一読の価値あり。ヤスパースの独語版への序文も、ほっこりさせられて良いです。2022/10/23
ブラックジャケット
9
これは難解な本だ。学生時代の教科書を思い出す。ふだんから軟弱な本ばかり選んでいると、こんな堅い本では歯が折れてしまいそう。一冊、ユダヤ人問題にさいている。ナチスの絶滅人種に選定された反ユダヤ主義を18、19世紀の欧州を詳細に分析している。つまりナチスの専売特許ではなかったことが、掘り起こされる。ユダヤ人こそが、反ユダヤ感情をアイデンティティーの保持に利用し、国境をまたぐロスチャイルドの存立基盤を追承認している。19世紀最後のドレフュス事件に現れたように、全欧州の地下水脈に流れる反ユダヤ主義を認めている。 2018/04/10