内容説明
甲虫の羽音とチョウの舞う,花咲く野原へ出かけよう.生物たちが独自の知覚と行動でつくりだす〈環世界〉の多様さ.この本は動物の感覚から知覚へ,行動への作用を探り,生き物の世界像を知る旅にいざなう.行動は刺激への物理反応ではなく,環世界あってのものだと唱えた最初の人ユクスキュルの,今なお新鮮な科学の古典.
目次
目 次
まえがき
序章 環境と環世界
一章 環世界の諸空間
二章 最遠平面
三章 知覚時間
四章 単純な環世界
五章 知覚標識としての形と運動
六章 目的と設計
七章 知覚像と作用像
八章 なじみの道
九章 家と故郷
一〇章 仲 間
一一章 探索像と探索トーン
一二章 魔術的環世界
一三章 同じ主体が異なる環世界で客体となる場合
一四章 結 び
訳者あとがき (日高敏隆)
注
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
251
概念的に理解し難い言葉や、日本語に直接訳せない言葉を造語していたり(それはそれで苦心された点でもある様ですが)で、中々難しい部分もありました。1933年暮れに脱稿され、2005年に翻訳された本書。古くなった知見もありましたが、それも敢えて註も付けずにそのままにしたとの事。益々読み手を選ぶ事になるけど。生物の行動様式を考え、理解するのに有益と言うより、必須の考えなのでしょうね。ヒトとは違う感覚器官を駆使して周り、環世界を如何に感じて行動に反映しているのか、動物行動学を学ぶ際には思い起こしたいと思います。2023/05/03
KAZOO
144
もともと1934年に出版されたのですが、知的好奇心を刺激させてくれる本だと思います。昆虫や動物から人間世界がどのように見えているのかを簡潔な文とかなり多くある絵によって説明されています。ハエから見える世界と人間から見える世界など、今まであまり考えていなかったような分析です。2016/04/22
やいっち
84
40年以上前に単行本で読んだ。この手の本では先駆的:「甲虫の羽音とチョウの舞う、花咲く野原へ出かけよう。生物たちが独自の知覚と行動でつくりだす“環世界”の多様さ。この本は動物の感覚から知覚へ、行動への作用を探り、生き物の世界像を知る旅にいざなう。行動は刺激に対する物理反応ではなく、環世界あってのものだと唱えた最初の人ユクスキュルの、今なお新鮮な科学の古典。」
ホッケうるふ
72
環世界という概念に目からウロコ。なるほど理屈では昆虫などは人間と物の見え方が違うと分かっているつもりだったが、感覚的にはやはり我々が見ているこの世界の中に彼らも囲まれて同じものを視覚的に捉えているという錯覚に陥っていたのが本書を読んでよく分かる。多くの実験に裏打ちされた自然科学研究なのに認識について哲学的ともいえる考察が展開される。主観によって現実は変わり我々人間の世界も個々の人間によって異なって見える環世界。ひょっとして我々人間にも知覚できていない領域がありこの世界は実は我々の見ている姿ではないのでは。2015/01/31
syaori
71
本書が見せてくれるのは、生物が知覚する世界。例えばダニの世界では、彼らをとりまく巨大な世界の中からたった三つの刺激だけが「闇の中の灯火信号のように」煌いている。そんな「未知の世界」を窺い知るために示される様々な実験を通して痛感されるのは、私たちはそれぞれの主観に「永遠に取り囲まれている」のだということ。しかも、私のなじみの道は別の人には迷う危険に満ちた未知の道というように、個体の経験によっても見える世界は違ってくる。自分が見ている世界だけが絶対ではない、そんな単純で大切なことを改めて教えてくれる本でした。2019/07/01