内容説明
貧富を問わず患者の看病にあたる鎮水のもとで医師修業を積む庄十郎。一方で兄の甚八は大庄屋を継いでいた。あの一揆騒動から二十六年、身を挺して増税を撤回した稲次家老は病に倒れた。度重なる不作、飢饉、人別銀。再び百姓に困難が降りかかるとき、怒りの矛先は甚八のいる大庄屋へ向けられた。時代のうねりの中で懸命に慈愛の心を貫こうとする青年医師の目を通して市井の人々を見た歴史大作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
扉のこちら側
81
2018年198冊め。医師としての生き様と同等に圧政に苦しむ百姓たちの一気の描写にページが割かれていてのこの上下巻のようである。大庄屋の跡継ぎではない次男という立場の主人公が、農民たちに寄り添って生きるようになる生い立ちが丁寧に描かれている一方、彼と道を違ってしまった長男についてはその生い立ちが掘り下げられなかったのが残念。2018/06/20
のぶ
79
下巻に入り、久留米藩の大庄屋の次男、庄十郎は医師を目指し医院を開業する。多くの人の面倒を診て奔走するが、並行して農民の苦しい生活が描かれる。やがて一揆が起き、多くの処刑者が出る。上下巻を通し青年医師、庄十郎の活躍と成長、当時の農民の生活が合わせて描かれ、その描写は的確かつ分かりやすく、文章もとても読みやすい。自分は福岡市に7年程住んだ事があるので、久留米の方言がとても心地よく感じられた。しばらく前に「水神」を読んだが、同じく筑後川をモチーフに使い、大きな感動を呼ぶ秀作だった。2018/03/13
てつ
50
江戸時代の医者の視点の話は読んでいてホッとする。たとえ書かれていることがえげつなくても、冷静な表現がなされるし、何より時間がゆっくり流れるので、視点をぶらさずに読み進めることができる。良作ですね。2018/12/15
かっぱ
38
一度目の一揆は稲次家老がいたことで、農民側に刑罰が下されるようなことはなかったが、二度目の一揆では、農民や庄屋、大庄屋にもお上からの通達でむごい刑罰が下される。幼い頃から大庄屋になることが定められ、感情を表に出すことが少なかった兄・八郎兵衛。最期に及んで「死にたかなか」と大声で叫びながらも、大庄屋としての責任を果たして亡くなる。弟の庄三郎に宛てた手紙で疱瘡で亡くなった母だけが幼い兄にとっての心の支えであったことを知る。庄三郎が子供たちに教えた3つの大事なもの。「は(歯)、はは(母)、ははは(笑うこと)」。2019/07/13
優希
37
百姓に困難が次々と襲うのが辛かったです。怒りの矛先は大庄屋へ向けられるのも納得でした。時代のうねりの中で懸命に生きる農民たちのあり方が刺さります。2023/12/29