内容説明
●名著『失敗の本質』の著者による昭和陸軍論
本書は、『失敗の本質』『戦略の本質』のメンバー戸部良一氏による本格的昭和陸軍論。
「戦前の陸軍は権力をほしいままにして対英米戦争に突入した」というステレオタイプな歴史記述に異議を申し立て、歴史家としての事実に基づいた分析を行う。「東條英機は縦割り組織に縛られリーダーシップは発揮していなかった」「大正期の肩身の狭さの反動が昭和陸軍暴走の遠因だった」「陸軍が主導した日独同盟は英米戦を視野に入れていなかった」など、従来の歴史書では得られなかった発見が得られる知的興奮の書です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えちぜんや よーた
105
東條英機の性格は10年くらい前にビートたけしさんが扮したドラマでなんとなくは知っていた。杉山参謀総長いわく「真面目すぎる」と。なるほどその通りのことが書かれている。彼は一時、首相・陸相・内相・参謀総長と権力の中枢を握っていた。しかしヒトラーやスターリン、ルーズベルト、チャーチルのように独裁者または巨大な権力者に見えないのは、各省や統帥部の間で「調整役」をしていたに過ぎないエリート官僚だったからのように読み取れる。良し悪しは判断しかねるが、東條自身は何か巨大な世界構想があったわけではなかったと思う。2017/11/16
泰然
25
組織論を通して見る、大戦前後の旧陸軍の自壊のブロセスの考察は実に見事な焦点だ。ヴィジョンの欠落、戦略やガバナンスの不在はもちろんなのだが、大正デモクラシーや政党力、更には欧州初の総力戦の登場で、旧陸軍は理想と存在感低下の狭間にあった点の論考が良い。優秀な軍事プロフェッショナルの彼らが「社会規範教育者」としての軍隊の考えを持ち、積極果敢、率先垂範の精神のもと失態を続ける姿は現代社会にも重なる。作戦遂行や平時の行政運営では優秀だった面々が次第に崩壊したのは、優秀であるが故の再学習による構想力欠如かも知れない。2020/08/27
小鈴
24
論文集ですがすべて読みました。予約が入らなければ借り続けられる図書館本を2ヶ月借りてしまった。多くの人に読まれてほしい本なのに誰からも予約が入らなかったおかげで読み切れました(笑)。この本を読んで、なぜ日本が戦争をしたのか一番わかったような気がします。歴史の記述を積み重ねた本よりも分かりやすいのは組織分析を通して記述しているからだ。あの有名な失敗の本質も読みたいと思います。借りっぱなしの私が言うのもなんですが購入して読む価値有りです。論文なので以下、章別にメモ&まとめます。 2017/12/15
小鈴
18
第5章統帥権独立の呪縛、第7章陸軍軍人はなぜ政治化したのか、から統帥権の歴史と運用の問題を中心に。統帥権独立制は1878年に陸軍省から参謀本部が独立して設置、当時の太政官政府と同格に。統帥機関である参謀本部は天皇直属に。なぜか。竹橋事件(近衛兵の不満爆発)を重く見た山縣有朋は背景に自由民権運動の影響があると分析。そのため、軍人が政治の影響を受けないため、「軍が政治化することを防止するための制度的措置」として統帥権が独立された。この制度の明快な説明がないと同時に反対した記録もない。「統帥権独立は軍が政治に→2017/10/26
小鈴
16
第9章「陸軍の日独同盟論ー対ソ軍事バランスへのこだわり」日独同盟構想の出発点は満州事変後の対ソ軍事バランスの悪化。34年6月時点で満州、朝鮮に駐屯日本軍の陸上兵力は極東ソ連軍の三割。とはいえ満州事変によって直接対峙状況が出現したのでソ連が軍拡したからだが。軍事的劣性を補う外交的措置は英米関係の改善とドイツとの提携。支那事変勃発。対ソ戦備を弱体化させない範囲で中国に一撃を与えて短期解決を図る→長期化、泥沼化→対ソ軍事バランスの更なる悪化を防止するため軍備拡充を痛感するができない→ドイツとの提携強化に傾く。2017/12/16