内容説明
鎌倉末期、後深草院の宮廷を舞台に、愛欲と乱倫、嫉妬の渦に翻弄される女官・二条。幼くして生き別れとなった娘・露子が、二条の遺した日記を繙きながら、晩年は尼となり自らの脚で諸国を遍歴するまで、美しく、気高く、そして奔放に生きた実母の人生を辿る。史上最も赤裸々な女流古典「とはずがたり」が700年の時を超え、大胆によみがえる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アルピニア
56
中世の女性日記「とはずがたり」を作者「二条」の生き別れた娘「露子」が読み、母の人生を辿るという設定。露子は母の行動について受け入れ難い部分もあったが、出家後の遊行(諸国を巡る修行)の末に恨み羨み、悔い惑いを浄化させてやっと出家者としての基点に立ったのだと思い至る。二条を自分の持ち物のように扱う院の行動は許し難かったが、ともすれば手の中から飛び立ってしまいそうな二条を哀しく見つめていた院の心も見えるような気がした。「生まれ変わっても院のお側に」とつぶやく二条。それは純粋な恋情か、あるいは葛藤の末の赦しか。2022/07/04
優希
38
『とはずがたり』がベースにあるのでしょうね。作者である母の紡いだ物語を生き別れた娘が読むことで、その人生を見つめていく。興味深い物語でした。機会があれば『とはずがたり』も読んでみたいです。2022/08/06
ゆずきゃらめる*平安時代とお花♪
32
〈日本の古典を読む:第八回〉のイベントより♪「とはずがたり」は、初めて読みました。鎌倉時代の宮廷にいた女房「二条」の一生。平安時代と違い妃に暗いがあるのではなく妾・寵姫は殿方によってえらばれる宮廷文化。彼女は生まれてきた時から決まっていた。それは必然かもしれないが彼女なりに【恋】をした軌跡だから誰も責められない。ー人を恨み羨み、己を責め苛んで生きるのは、虚しきこと。-「二条」が哀れとは私は思いません。五冊読んだ「露子」や他者に伝えたいことがあったのでしょう。2017/08/19
きいち
25
平和に育てられ家庭を持ち子を育ててきた二条の娘が、持ち込まれた二条の手記&家集を読み解いていく、という形で「とはずがたり」の世界を再構築していく。テキストに忠実な読み取り方も設定考証もしっかりしてるなあ、と思ったら、この著者、大学講師の経験まであるガチの国文学徒だ、どおりで。◇後深草に対する「二条ちゃん、それでいいの?」という現代の「とはずがたり」読者の思いは娘も共有。しかしそれにとどまらず、彼女に仮託された読みは、遊行者への憧れをテコにもう一段先へと進む。二条の生きざまの肯定に至る過程が納得度高い。2020/01/12
みっちゃんondrums
25
不勉強にして、途中でようやく実在する古典「とはずがたり」が組み込んであることに気づいた次第。作者・二条の娘・露子の視点で読み解いている。ほぼ同時期に、朝廷内の三人の男性から愛され、それ以外にも求められて関係を持ち……と、モテ自慢かい!と眉をひそめた。が、そこはさすが現代作家・奥山さん、露子にも実母・二条への嫉妬めいた気持ちが芽生えたことを描き加え、二条を辛辣に批評する筆に、私の気持ちも中和されたのだ。男性の後ろ盾がなくなったときに尼となり、遊行に出る二条、やはり他の女とは一線を画す女だったのだろう。2018/11/07