内容説明
州立ライマ病院のビリーは最悪の状況に追いこまれていた。以前に時折あらわれていた、24の人格を統合する〈教師〉も姿を消し、人格は分裂の度を深める一方だった。しかしビリーは、シーツをほぐした糸を用いて外部へ中の状況を知らせ、さらに院内の仲間を組織して叛乱を準備するが、状況は思わぬ方向へ……人間の想像力を超えた極限状況と、そこで生き抜こうとする青年の軌跡を描いたビリー・ミリガン2部作、堂々の完結篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェルナーの日記
120
本シリーズの下巻。ライマ精神障害犯罪者病院に送られたビリーは自分という本来の人格を取り戻すためハンガー・ストライキを起こす。そして飢餓状態が進行し死線を彷徨うことで一条の光明を見出す。解離性同一性障害のメカニズムは、まだまだ解明されていないことが多く、幼児期における虐待を受けた児童であっても必ずしも解離性同一性障害を発症するとは限らず、様々な違った症例に至ることが多い。例えば比較的軽い症状として急性ストレス障害 (ASD)・うつ症状・摂食障害・薬物乱用等に至ることが多い。 2016/07/25
のっち♬
116
結婚も社会復帰も失敗して適切な治療も審理も妨害されたビリーは絶望から死への断食を敢行。以前の逃避とは異なる意志的受容であり、統合は現実との闘いの果てに意外な形で成立した。権力横暴と虐待の連鎖性を医療・政治・メディアの各観点から扱った点も本書の大きな意義。非道な行いをした医者、保安官、仮釈放機関委員長ではなく善意の弁護士ばかり死ぬのが深刻さを象徴している。変質者に更に変質的な形で報いる監獄社会は益々分裂症的になりつつある。継父を許すビリーが未来にかける願いは、自ら実証した社会の不寛容に重い問いを投げかける。2023/01/22
デビっちん
19
音を聞こうと耳をすましても、何も聞こえず静寂があるだけでした。頭の中にいる23人は、死のセラピーを通じて棺の中に入ったのです。薬による統合ではなく、「死の断食」を経ることでビリーは再生されました。その過程での子どもたちを思うアーサーやレイゲンの気持ちを察すると、涙が滲みました。本書の内容を頭の中で横展開するのであれば、意図的にすべてをやめるという選択をすることで、新たな道が開けるかもしれないという仮説が立てられるのかなと思いました。やめて新たに見えてくるものはないだろうか?2016/07/12
柏葉
7
政治ゲームに巻き込まれ、ビリーが非常に不当な扱いを受けていることに腹が立った。多重人格者の艱難辛苦というより、権力闘争に利用された者の闘いの記録だと思われる。最後には自由になれて良かったが、これからも大変だろう。「ビリー・ミリガン」は知られているから、どこに行ってもついてくるものがあるんだろうな。2012/01/29
あんこもち
5
政治や、マスメディアに翻弄された彼らの長い長い時間。ついにすべてが嫌になった彼らは23の棺が存在する『死にゆく場所』で眠りについた。全ての人格が、子どもたちでさえ死を望んだ。でもその先にあったのは完全なる統合だった。アーサーやレイゲンが小さな子どもたちを説得し死ぬことを了承させるってところで胸が張り裂けそうになった。2010/02/02