内容説明
大君亡きあと中の君への情念にもだえる薫の前に現れたのが、中の君の異腹の妹・浮舟であった。彼女は薫に惹かれる一方で、色好みの匂宮とも通じ、恋の板挟みに思い悩んだ末に霧ふかい宇治川に身を投げるが…。極限の愛を余すところなく描いて、圧倒的な感動をよぶ田辺版・新源氏物語、堂々の完結編「宇治十帖」下巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
69
薫の恋がうまくいかないのがもどかしく、匂宮の浮気にイライラさせられました。浮舟は2人に愛され、薫に惹かれて匂宮に通じるという恋の板挟みというのが辛い立場に思われました。川に身投げする気持ちもわかります。この物語は、どこまでも極限の愛を描き、人々を魅了してきたのですね。2019/01/16
aika
47
物語を読み終えて、結局は、望んだ女性を誰ひとりとして手中に得ることのできなかった薫の運命の哀れさが深く沁みました。理性的でただ静かに愛する薫と、激情に突き動かされるままの匂宮。対照的な貴公子ふたりの狭間で揺れる浮舟が苦悩に身を焦がしてこの世を憂う様を想うと、心苦しいです。しかし薫以外に後ろ楯のない身でありながら、白黒決めきれずに一時の感情に流される彼女の弱さには苛立ちも覚えます。それは、理性ではどうしようもない、愛に走らずにはいられなかった人の性を刻むように描く作者の人間観の深さが煽るものだと感じました。2020/05/10
shikashika555
45
田辺聖子抄訳。 原典を読まずともひとつの話として理解でき楽しめる。 しかしこの話、なんと自己中心的な「愛」や「想い」しか出てこぬ事か。驚き呆れる。 人を恋うることも、心配することも、思いやる様も、全てそう感じる人物からの視点でしかなく、ここまで潔い視点の限局というのは却ってそれぞれの身勝手ぶりを浮き立たせるものであるなと感心した。 浮舟という人物の寄る辺なさとすさまじい孤独は痛ましい限りである。 はじめて自分の思いを肯ってくれた相手が横川の僧都だったのか。それも出家の意図を汲んでのやり取りで。2023/11/11
ちゃいろ子
43
田辺聖子版「新源氏物語」とうとう読み終えてしまった。 原作の素晴らしさはもちろんだが、田辺聖子さんだからこそ、こんなにもわかりやすく、それでいてきっと原作の素晴らしさはそのままに、美しくて悲しくて愛おしい人間の物語として読ませてくれたのだろうなぁと感じました。 とても 楽しく幸せな時間だった。少し時間を置いて、いつか 他の作家の源氏物語も読んでみたい!と思いました!2023/09/10
kagetrasama-aoi(葵・橘)
41
「霧ふかき宇治の恋」下巻。『東屋』の巻から『夢の浮橋』の巻まで。正編の「新源氏物語」が光源氏が政治家としての顔も語られているのに対して、やはり次世代編の「宇治~」は薫といい匂宮といい、唯唯恋愛に懊悩している、まさに恋愛小説でした。二人の間で翻弄される浮舟の哀れさが一入です。私はこの『宇治十帖』の終わり方が好きなので、匂宮に腹立たしい気持ちになりながらも、楽しく読了しました。巻末の田辺氏の記事は氏の源氏物語への思いがわかり感動します。そして解説が氷室冴子氏、読みながら落涙いたしました。2021/10/25