内容説明
亡くなった母が幼少時を過ごしていたという、殺人現場の家を訪れたビルギッタは、密かに数冊のノートを持ち出した。その中に記された“ネヴァダ”の文字が目に飛びこんできたからだ。それはスウェーデンの寒村で起きたのとそっくりの血塗られた事件が起きた土地。日記は1860年代に書かれたもので、アメリカ大陸横断鉄道敷設工事の現場監督が残したものだった。貧しさにあえぐ19世紀の中国の寒村、鉄道建設に沸く開拓時代のアメリカ、そして発展著しい現代の中国、アフリカ。現代の予言者マンケルによる、ミステリを超えた金字塔的作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
310
ビルギッタにとっては、かつて若き日に理想とも仰いだマオイズム。その頃、パリでは学生たちが中心になって「5月革命」の嵐が吹き荒れていたし、その余波はスウェーデンにも及んでいたのだろう。当時、ヨーロッパ(ことにフランスで)人気を博していたのがマオイズムだった。ところが、長じて訪れることになった北京はすっかり様変わりしていた。それでも彼女にはなお夢の残影はあった。追う立場から、いつの間にか追われる身になったビルギッタ。下巻の後半のサスペンスは、読者もまた身の毛のよだつスリリングな展開である。物語の結末は深い⇒2024/09/01
ケイ
128
上巻最初の衝撃を説明しきれていないが、欧州から中国への理解はこういう筋書きを可能にするのかもしれない。1960~70年代における、欧州での、特にスウェーデンでのマオイスト的思想とはこうだったのかと、その理想が垣間見える。マンケルが長くアフリカに滞在したことが書く動機となったのだろう。アフリカにおける中国の影響力は、21世紀に入って非常に顕著になった。それに対するマンケルなりの問題提起だと思う。女性しか活躍しないストーリーだったな、それにしても。2018/08/21
ふう
79
どのページにも得体のしれない怖さが潜んでいて、読んでいるだけで動悸がしてきました。物語の舞台はスウェーデンから北京へと移り、中国の抱える大きな問題や深い闇がかなりの量で描かれています。遠く離れた北欧の若者たちに文化大革命がこんなふうに受け止められていたのかと驚き、そして、白人を優位に置く人々の差別がどれほど悍ましいものだったか改めて思い知らされました。その差別に対する作者の考えや綿密な調査が、今までのミステリー小説とは違う新しい物語を創り出しています。肝心の警察が事件の真相にたどり着くのか気になります。2018/02/12
巨峰
77
思っていたのとは少し違う。北欧ミステリというより、下巻は中国が舞台です(チャイナタウンを含む)。近過去・現代の中国史を正面から向き合った小説ととらえると重厚。北欧・欧州からみた中国・並びにアフリカの見方が興味深いです。日本の影が形もないけど、それは欧米列強に植民地的支配を受けなかったからかもしれない。マンケルの筆力はこの作品でも凄くて、同時代の日本人小説家が中国を捉えた作品にこのレベルの物があるかと考えると、差が歴然としていると思う。でも、面白い小説家というと話は別。2019/05/16
NAO
71
かつて革命を目指した共産主義者だった主人公が向かった憧れの中国は、彼女が思い描いていた天国とはまるで違っていた。スウェーデン、アメリカ、中国、アフリカ。貧しさが人々を苦しめる世界から抜け出せる道はあるのか。それぞれの国のそれぞれの形、それは、正しいものだといえるのか。過去からやってきた復讐者。だが、その復讐者自身もいつの間にか残忍な搾取者になってしまっていることに全く気付いていないのが、何ともいえない。残忍な搾取者だからこそ復讐などということに固執し狂喜するのだということに。2024/01/04