内容説明
総排水量4万3千トン、40サンチ砲8門搭載、最高速力26.7ノット。世界最大・最強・最高速の戦艦としてその威容を誇った軍艦長門は、帝国海軍の栄光と矛盾を一身に背負って激動の大正・昭和期を生きた。連合艦隊が壊滅し、ただ一隻生き残った長門を、敗戦後待ちうけていたのは劇的な終焉……。一隻の軍艦の生涯を通して今よみがえる、“あの時代”の日本と日本人の一大スペクタクル!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
107
1919年11月、拍手喝采と万歳が天地に轟く中命名された当時世界最大最速最強の軍艦長門。大和の私生児的生誕と対極的。その生涯は日本海軍の栄枯盛衰の象徴で、幾多の人生を編み込むように膨大な逸話を交えて進行する。海軍出の著者の情報網の賜物。国家予算を削る建造は相応の芸術性と技術の結集だが、曲げられない煙突の排煙や使い方の分からない電話が皮肉にも大正の乗組員を悩ませる。社交も輸送も教育も担う洋上小都市は言語も気風もリベラル。関東大震災の救援も人気の一因だろう。ロンドン条約を契機に情勢は刻々と雲行きが怪しくなる。2023/03/27
白義
11
長門を中心にした日本帝国海軍そのものの一大史劇であり、開放的でスマートな海軍気質への惜しみ無い讃歌と郷愁を、数々の挿話でトータルに表現している。軍縮に揺れる国際情勢の中、多くの個性的な人々が長門に関わり、たくさんのドラマを営んできた。猛々しい相貌だけでなく、忍者や南方熊楠まで講義に来る文化的な側面。そして皇族にも時には遠慮せず、苦楽を共にし絆を築く自由な海軍気質、どれをとっても興味深い。実戦とは縁のない船だったが、関東大震災における救援任務で見せた勇姿は今でも多くの人の心を打つだろう2014/05/28
NICK
6
戦艦といえば大和という感があるが、日露戦争のあと大正期から戦後にかけて最も有名だった戦艦が長門らしい。連合艦隊の旗艦を務めた長門の建造から核実験の標的となって沈むまでの生涯を描く。軍艦の生涯は兵士たちの、ひいては海軍の歴史でもあるわけで、当時の帝国海軍の風俗が笑いあり涙ありのバラエティ豊かに記述されている。比較的リベラルな空気で、ユーモアが重要視されていたというのはかなり意外。英国に倣ったスマートさがそうさせたのか。ロンドン軍縮会議のあたりからそうした空気が淀み始めていくことになり……2014/05/16
kiiseegen
5
再読。大正六年八月起工、大正八年十一月進水、「長門」命名、大正九年十一月公試完了、海軍引渡、軍艦籍編入。大戦を乗り越えた唯一の戦艦の生涯を追う。昭和史を背景に本巻では昭和七年迄を...続きへ。2023/07/11
hayatama
4
一体何度目の再読になるやら。阿川もそうなんだけど、ホンマに従軍経験のあるヒトがどんどん鬼籍に入っておられる。あたしの身内にはもう1人もいない。で、従軍経験のある方が、戦争とは、ということを十分に語り尽くすことのないまま、この国は戦後70年以上経ってしまった。こうなると、阿川や城山三郎、あるいは高木惣吉などの著作から、戦争とは?という問いに対する答えを探していかざるをえない。(もちろん大岡昇平でもよい。)果たして、どれだけの「エライ人たち」がそういった、「ナマの兵士の声」に耳を傾けてるんだろう。2016/07/08