新潮文庫 顔

著者名：丹羽文雄【著】

新潮社（2016/06発売）

• ISBN：9784101017112

内容説明

有名な仏教学者・田能村清州の息子・耕は、親戚の娘・衿子と秘かに好意をいだき合っていたのだが、耕がアメリカ出張から帰ると、あろうことか彼女は父と結ばれていた。絶望した彼は、愛情のない結婚をし、私生活は乱れた。ところが、清州の急死から、もう一度、衿子との接触が始まって……。愛欲のもつれのなかに、罪悪意識を追究して、著者ならではの心理描写が冴えわたる作品。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

[なおぱんだ]

夫婦の在り方が、封建的な社会から現代により近づきつつある過渡的な時代に描かれた作品だと思いますが、親と子ほどの年齢の離れた夫婦という、時代的にも奇異に見られがちな家族の中で、息子と義母がかつて想いを寄せ合い、決して結ばれることを望むことが出来ない関係であることに、もどかしさを覚えます。やがて父親が亡くなると二人の前に障害がなくなり、改めて二人の新しい人生が開けるように思われますが、著者はそこに男の弱さと女の強さを巧みに描き、現実的な結末を迎えます。

2019/08/25