内容説明
南海の孤島にたてこもり、ベニヤ板で作られた“自殺艇”による絶望的な特攻作戦に従事する若い指揮官と180名の部下たち。死の呪縛のなかで出撃命令を待つ彼らの一触即発の極限的な状況を、人間の生と死の本質を見据えつつ、緊迫した文体と重いリアリティで捉えた戦記文学の名作「出孤島記」他、「格子の眼」「砂嘴の丘にて」「朝影」「夜の匂い」「子之吉の舌」「むかで」「冬の宿り」「川にて」。島尾文学の傑作全9編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobody
11
開高健に比肩する愚劣な純文学である。拷問、罰としての読書。『出孤島記』の初セリフは32頁目。『川にて』は17頁中11頁全面活字。解説子田中美代子は島尾は「リアリズムなどに何の興味もない」と言い新潮文庫編集者は「重いリアリティで描いた」と言う。斯様に文芸評論というのは空っぽなのである。同モチーフで三作という反則。特攻隊長が基地を抜け出して女の元へ歩き帰る、その情景描写。書くことがないからとにかく情景描写。で、『むかで』の結びではその対極たるシュールレアリスム。純文学に対して面白くないと言うと必ず面白くなくて2020/02/09
ハチアカデミー
2
終戦前後を描いた表 題作も魅力があるが、初 期の島尾作品がもつ シュールさが全面にでた 「むかで」が白眉。迷作 でした。息子がモデルの 「格子の目」「子之吉の 舌」も、なんとも言えな い気持ち悪さが残る。こ の作家の独自性を味わえ た。B2011/10/07
まえたかずき
0
太平洋戦争末期に海軍の指揮官である「私」が南島で水上特攻隊の出撃命令を待機している時の出来事が、筆者の実体験に基づいて描かれている。いつでも出撃の準備はできており、指揮官としての覚悟とその一方で生き延びたいという気持ちが交錯している「私」の心理が、情景描写や筆者の独特の感受によって巧みに表現されている。2017/11/04