内容説明
「生きた人間の記録、それが文学であり、それを書くことこそ文学者である。……生きるということの内容は、何と豊かでしたたるような美しい味があることか。いつまで生きるかわからぬ今、私は自分の生活とその記録とを、出来るだけ十分に味わい、十分に書いて残さねばならない。」(本文より)戦争とは何か、日本人とは何かを自問した文学者の不朽の日記文学第三冊、完結。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
讃壽鐵朗
3
終戦に至る一年数ヶ月をこれほど詳細に書いたものはないのではないか。その当時を知る人も知らない人も必読の日記。2015/09/13
夕木
1
彼は日本の勝利を信じた、いや信じこまされた一文学者ではあるが、積極的なファシズムなど持ち合わせない、いわゆる知識人である。だからこそ、毎朝の新聞に掲載される戦局を日記に記し、また執筆も続ける。時に日本の勝利を喜び、時に山本五十六の死に心細さを抱いたり、時にアッツ島全滅の際は毎日の静けさをたまゆらの陽炎のように感じたりと、その時々の感情が国民的感情に則ってもいる。もし真正の情報が彼に与えられていたらと思うと、悲運でならない。戦争の自信(1944年10/18)も堂々と書けなかっただろう。2015/08/07
ネコ次郎
0
かくも苦労して読んだ本は最近珍しい。表現は決して難解ではないが、時代の波濤に飲み込まれて行く日本人が生々しく描かれていて、息苦しくなるのだ。これが作家の業というものか。あの時代に書いた日記が3,000枚。書かずにはいられない、という人間がいたからこそ残った記録である。2016/04/06