内容説明
晴やかに装っても振り返る者のない生活に失望し、兄の買ってくれた赤いミニで散ってゆく娘、老醜と整形したふくよかな乳房を花嫁衣裳に包み宣伝パレードに繰り出す老婆、夫のいわれのない嫉妬にいたたまれない気持になる女……。つましく生活する市井人の姿を架空の町・菜穂里を舞台に浮び上らせる。もの悲しい場内がスポットライトをあびる、サーカスの意匠に仮託した連作短編集。
感想・レビュー
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shizuka
57
サーカスになぞらえて、菜穂里という町で起こる様々な出来事が淡々と書かれている。山奥の娘からみたら「町」、でも東京から見たら記憶にも残らないような田舎。海沿いのこの町はどこなのだろう。お話は人間の隙をついた、ちょっとした油断から起こる不幸が書かれていることが多い。でもそこかしこにあらわれるチャーミングなネーミングにほっこりしてしまう。「バーバー・鴎」だったり「巴里座」だったり。私が茫洋と望んでいる郷愁の町がここにある気がする。「巴里座」の美しい乳を持つ八十歳の老婆のパレードを見てみたい。たまらなく旅情。2017/03/19