内容説明
遊女屋の愛娘ゆうは大勢の花魁や男衆の中で、華やかな郭の裏も表も見て育った。ある日、芝居見物に出かけたゆうは、升席にいる男を見て衝撃を受ける。五年前、雑踏で途方にくれていたゆうを救い、優しさで包み込んでくれた旅役者だった。一緒になれるなら滅びてもいい――。そう心に刻んだ幼い日の記憶を頼りに、無名の役者に縋りついていく女の情念の世界を描く、直木賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
121
皆川作品3作目は時代もの。幕末から明治初期に遊女屋の娘として、華やかな遊里の表舞台とは裏腹に、その裏側にある汚さを見て育ったゆうが、救いを求めるように旅役者に心を奪われていく姿を描く。寂寥感の中に見た一条の光に照らされたような、安心してそこにいることのできる自分の場所。静けさの中にも、人の中にある魑魅、そして猛り狂う力が漲る。幻想的で難解なものの多い皆川作品の中にあって、比較的入り込みやすく感じた。第95回(昭和61年上半期)直木賞受賞作にして傑作。2019/12/14
遥かなる想い
94
第95回(昭和61年度上半期) 直木賞受賞 吉原の娘ゆうの成長を 通して、そこで生きる 遊女たちの哀しみ、役者たちの苦悩を描く。 艶っぽい情念のような雰囲気が妖しい。 幕末から明治にかけて、 花魁の栄枯盛衰、 おゆうは何を思い、 生き抜いたのか。 心寄せる役者福之助の 人物造形がやや薄く感じるのが 少し残念。 子供のころ、行ってはいけないと 厳しく言われると、 なぜか逆に行きたくなる、 そんな気持ちが 甦ってくる、吉原の物語だった。2013/09/28
mii22.
65
淋しい桜の季節となった2020年の春に4年ぶりの再読。華奢な若木に淡々とした薄桃色の花だけが、枝を飾っている。染井で生まれた桜。儚く美しく潔い桜。何度読んでも「きつの桜」のくだりでは涙ぐむ。遊女屋の娘ゆうが、うまれた時からの心の空洞と寂寥感を抱えながらも、ひとりの男に出会い惚れぬいて、大人の女に成長していくさま、その一途な恋心に胸を打たれる。2020/04/03
mii22.
55
幕末から明治の始めに全国に普及していったといわれるソメイヨシノ(染井吉野)。その美しく哀切な創作話に驚嘆し涙した初読の時、また桜の季節に読みたいと思い続けていた作品。また読んで涙した。吉原の遊女屋の娘として生まれ、幼い頃より心の空洞と寂寥感に抱かれ育ったゆうが見つけた本当の自分の居場所は旅役者福之助の隣だった。ゆうが目をとじると花の並木が見える。その下をこれまでに遊女屋や、芝居小屋で出会ったひとびと、生者も死者も同じように歩いている。心に染み入る美しい場面だ。2016/03/29
文庫フリーク@灯れ松明の火
52
(解説より)皆川博子さんデビュー作受賞の際の言葉「私の中に巣くう狂気が、さまざまな夢を見させる。文字に定着してしまえば、未だ寒々と貧しい世界。いつか華麗な狂気の世界を文字の上にもあらわしたいと一枚、二枚と書き続けています」直木賞受賞の『恋紅』は狂気よりも、少女から女に変わり行く情念の世界・乾いた筆致。奇しくも同じ直木賞・木内昇さん『漂砂のうたう』と同じ幕末から明治の廓世界。何気なく描かれる細々とした描写は恐ろしいまでの知識の裏付け感じさせ、役者(芸能舞台)の世界と併せることで濃密な物語を紡ぎます→続2011/12/26
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