内容説明
ボーイフレンドたちに自己の肉体を与え続ける女子学生、ヴァージニアの奇妙な孤独感を描いた表題作。死の床で、愛と生の妄執にとらわれる歯科医の、鬼気迫る意識を掘り下げた『長い夢路』。婚約者の死霊との愛の交歓を、エロティカルな幻想の中に捉えた『霊魂』。――荒涼たる死と性の深淵、超現実的な愛と夢想の世界を、明晰な知性と、ロマネスクな筆致に托した秀作三編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
163
3つの小説を収録するが、それらは独自の世界を構成していて、そのいずれもが別の作者によるものかと思うほどにムードが違うのだが、しかしそれでいて、これらはいかにも倉橋由美子の手によるものだとしみじみと納得させるものである。読んでいる途中でも、随所でまさに小説を読んでいる楽しみを味わえるし、それぞれのコーダがまたうまいのだ。最後の1文を読み了えた時に、再びその全体像が甦ってきて、思わずため息が漏れるのである。表題作ヴァージニアの強烈なまでのリアリティ、あるいはギリシャ悲劇と謡曲とが重層性。まさに表現の妙だ。2014/08/28
メタボン
30
☆☆☆☆ 観念的なのに幻想的で奇想な世界を描いている短編集。読み方は一筋縄ではいかないが、その世界観に十分浸ることが出来た。男に対して奔放なヴァージニアと私ユミコとのアイオワでの日々をギリシャ神話やカフカ、アメリカの作家のエピソードを通じながら観念的に描く「ヴァージニア」。父の臨終と娘の結婚に至る経緯を、ギリシャ悲劇と能を交えながら夢幻的に描く「長い夢路」。霊魂の存在を物体的かつ官能的に描く「霊魂」。2019/08/12
有理数
22
倉橋由美子の文章は美文と言って差し支えないと思われるが「美しい文」というよりも「文が美しい」のである。美しい言葉と美しい言葉の折り重なっているという意味の文章ではなく、文それ自体の単位で洗練されていて、言葉の運びが流麗に思われる。表題作は難解で、そもそも物語とは何なのだといった心地になるが文章がよいので辛くはない。表題以外の二編は素直に面白かった。特に「霊魂」は、まさか倉橋由美子の作品で純粋にキュートで可愛いなあという気持ちにさせられるとは思ってもいなかったので、そういう意味でもお気に入りの佳品。2016/03/13
501
20
3編の短編集。′ヴァージニア′は文学的な昇華がされているものの下地は自らの経験とのことで、ある女性のルポのような実在感があり、彼女を通して著者の文化論のような思想を展開し私小説っぽい。′長い夢路′は死にゆく人とそれを囲む人々の妄想と現実が混在した幻想的な作品。幻想的といっても嫌に生々しい。′霊魂′は霊魂となった婚約者と生活を共にする話で、結末はベタな感に持っていきながら、著者っぽくほのぼのとした中にぞくっとし怖さがある。3作同じ短編集に入っているのが不思議なほど毛色が違うが、妙に収まりがいい。2017/03/20
Roy
16
★★★★★ 固く緻密な狂気を当初感じていたのだが、読後色々と思い返しているうちに、奥底で眠っていた自分の中の狂気が覚醒し、徐々に荒ぶってくるような感覚に陥った。でもそういう内容じゃない。で、表題作「ヴァージニア」でmake loveという言葉が頻繁に使われていて(しかも英語表記)、またしても薄ら笑いを浮かべた叶姉妹(特に姉・恭子)の顔がチラつき、大変なショックを受けた。自分の中の狂気が覚醒しつつあるのは度々脳内に現れる叶姉妹のせいかもしれない。2009/02/15