内容説明
世界恐慌の煽りをうけ、日本が深刻な不況に見舞われていた昭和七年(1932年)。カリスマ的な日蓮主義者、井上日召が率いる集団「血盟団」の若者たちが連続テロ事件を引き起こし、元大蔵大臣・井上準之助、三井財閥総帥・団琢磨が凶弾に倒れた。
茨城・大洗周辺出身の青年や、東京帝大を中心としたエリート学生たちは、なぜ井上に心酔し、凶行に走ったのか。その背景には格差社会、漂う閉塞感、政治不信という現代日本と酷似する状況があった。
最後の血盟団員へのインタビュー、中曽根元首相の証言、裁判記録などから「昭和史最大のテロ」の謎に迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kawa
39
宗教家・思想家の井上日召氏を中心とする血盟団を追う本書。新書「五・一五事件」を読んだとき優秀な若手海軍将校が何故、後先も考えずに短絡的にテロ事件を起こしたのか疑問だったのだが本書を読んで氷解。十月事件、三月事件、血盟団事件、五・一五事件の思想的流れや当時の国家主義者の立ち位置が明解に理解できる良書。本書によると、事件に関わった井上氏始めとする青年達は、真面目・優秀で自己の人生に真剣に関わった人々。それだけに、宗教や思想の諸刃の怖さを感じる。本書で描かれない悟りの人・井上氏の戦後にも興味のあるところ。2021/01/24
ゲオルギオ・ハーン
25
1932年に起きた大物政治家と三井財閥総帥を射殺したテロ事件(本書では殺人事件としている)を裁判記録などから時系列を整理してまとめた一冊。テロを起こした血盟団と呼ばれたグループは組織性や計画性がなく、「貧農を救済するために君側の奸臣を誅殺する」という題目でたまたま殺しやすいと判定した要人を対象にして捨て身の作戦で実行した。事件自体は拙いものだが、本書は彼らの人格形成や彼らを導いた井上日召や彼らに影響を与えた思想家や若手軍人たちにも注目し、血盟団事件の広い視野で捉えようとしている。2022/10/10
キクマル
14
大正末期から昭和初期にかけて革命を起こす事に人生を賭けた人々を丁寧に書き上げたノンフィクション。この血盟団事件から、間もなくして五・一五事件が起き、その数年後に二・二六事件が起きる。当時の日本は現代の日本とは全く違う世界だった事が、良く解る本でした。2016/10/05
Hiroki Abe
13
読了、ノンフィクションで分かりやすく、血盟団事件が起こった時代背景と人物たちの動機と行動と煩悶が描かれています。物資の豊かさや法体制など当時とは全く比べものになりませんが何故か非常に似た空気感を感じてしまう現代。「明治維新から64年後に起きた血盟団事件、終戦後63年に起きた秋葉原事件。両方とも国家の成長期が終焉し、社会問題が鬱積するタイミングだった。」著者が今作を書こうと思った切欠も現代だからこそのものだった。2016/05/25
takeapple
11
当時と現代の相似に驚く、コロナ以降なお一層の日本社会の劣化が露呈し、更に進む。でもそれは第一次世界大戦後の日本でも進行していたんだ。このままの状況が続くようだと血盟団のような人々が出現してテロ事件が起きてしまうのだろうか。2020/06/07