内容説明
「茶々は眼をつぶった。父浅井長政が、母お市の方が、義父勝家が、伯父信長が、みんなそうしたように、彼女も亦白い刃先に眼を落としたまま、自分の前の短刀を執る時刻の来るのを待っていた。矢倉の窓からは、初夏の陽と青い空が見え、それ以外の何物も見えなかった。城を焼く余燼の煙が、時々、その青い空を水脈のように横に流れていた」――悲運の生涯を誇り高く生き抜いた秀吉の側室・淀どのを深く、詩情豊かに描いた傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミユ
48
あくまでも茶々の目線で進むので歴史的な戦も事件も伝え聞いた、次女たちが噂を教えてくれたというもの。この本の淀殿はとても人間味のある女性として描かれている。よく言われる悪女でもなければ、極端に美化したものでもない。嫉妬もすれば誰かを嫌いになることもある。時には悪口だって言うし、我が儘も言うだろう。でも小督が佐治一成に嫁ぐときは彼女にとって幸せな縁組なのか心配したり、京極高次や蒲生氏郷に恋心のようなものを持ったり、秀吉に対する心の動きや揺らぎに戸惑ったり、等身大の女性としての茶々がいました。2016/06/27
i-miya
43
2011.08.04 (カバー裏) 茶々は眼をつぶった。父、浅井長政が、母、お市の方が、伯父、信長が、みなそうしたように短刀を執る時刻を待った。城を焼く煙、水煙のように空を流れる。悲運の生涯、秀吉の側室、淀どの。(井上靖) 1907、北海道旭川市生まれ、京都大学文学部哲学科卒。大阪毎日新聞勤務。1991死亡。(解説=篠田一士) 1955.08-1960.03、別冊文藝春秋、6年間、長い。リリシズムをどう生かすか。2011/08/03
河内 タッキー
12
浅井三姉妹の長女として、秀吉の側室として、秀頼の母として、波乱に満ちた茶々の人生を間近で見てきたような読後感。悪女として描かれることが多い茶々であるが、この作品を読むと魅力的な女性だと思わずにいられない。2019/10/27
百合子
8
浅井長政の娘であり、織田信長の姪。そして豊臣秀吉の側室となった茶々=淀どのの一生とは…。歴史は視点を変えれば見えるものが変わる。茶々が時代に翻弄されながら必死に生きていたのがよくわかった。大河ドラマにもなったが浅井三姉妹は本当に数奇な運命だった。2007年「茶々─天涯の貴妃」というタイトルで映画化。2015/05/26
よひとかっぽ
7
小谷城、北ノ庄城が焼ける情景を目の当たりにし、大切な人を失った彼女の幸せは「合戦に勝つこと」だった。それは、宿敵のはずの秀吉の正室となり、大坂の陣で捨て切れなかった豊家存続の執着心からも窺い知れる。また、三姉妹の互いの心の機微もとても興味深かった。2023/12/29