内容説明
ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
449
小説のタイトルとしてはかなり奇妙だ。通常は、例えば「空白を満たすもの」のように名詞化しそうなものだが。そこに作家のどのような意図があったのかは、上巻を読んだ限りでは不明だ。そして、構想もまた突飛である。死者が3年後に甦るという設定に始まるのであるから。平野啓一郎のこれまでの作風と比べても、また一般の純文学の領域(本書はあるいは層ではないかもしれないが)からも大きく逸脱している。あまり読んでいないが、東野圭吾のエンターテインメント小説がこれに一番近いだろうか。今後の展開は全く不明のままに下巻へ。2019/03/24
おしゃべりメガネ
165
読友さんにオススメいただいていて、なかなかチャレンジできなかった作品です。どうしても平野さんの作品となると、ちょっと構えてしまいます。主人公「徹生」は3年前に謎の変死を遂げ、生き返る'復生者'となり、この世に突如舞い戻ります。他にも同じような境遇の'復生者'もいて、謎は深まるばかり。妻は喜びを表しつつも、幼い子は戸惑いを隠せません。そもそも「徹生」は自分の死が自殺だったコトを信じられず、改めて真相をつかもうとします。自分の死に関わりがあると思われる「佐伯」という謎の男、さて後半はどんな展開になるのやら。2018/11/23
ナマアタタカイカタタタキキ
106
復生者として現世に立ち返った土屋徹生が生前の住まいに帰還すると、そこには自分の喪失により傷を負った家族が居た。妻によると、彼は三年前に職場の屋上から飛び降りて自らの命を絶ったのだという──観念的な何かを示唆するような表題が気になって手に取った。例えその人が居なくなったとしても、不在=空白という形でそこに有り続けるということを改めて意識させられた。死別でなくとも、長い不在の後に元の場所に帰ることは、場合によっては折角埋まった耐え難い空白を再び生じさせることにもなるのだ。徹生は何処に行き着くのだろう。下巻へ。2020/12/13
chantal(シャンタール)
90
読友ざるちゃんのおススメ本。会社の会議室で、高所から落下する悪夢から目覚めた徹生。それは夢から覚めたのではなく、生き返ったのだ!失踪者が突然帰ってくる、とかではなく、本当に一度死んで、検死もして、お葬式もしてお骨になった人が生き返ると言う突飛な設定に驚くが、すぐに物語に引き込まれる。自殺と思われ、残された家族、友人、同僚は苦しんだ。でも本人は「俺は自殺なんてしていない、殺されたんだ!」と訴える。死の真相は?この後の徹生の運命は?下巻へ!2020/06/26
Willie the Wildcat
70
蘇生。記憶の断片と、自他による再認識の積み重ねで求めるモノ。確証・正常性・自己奉仕・後知恵バイアスなど、様々なバイアスが混沌。自然の摂理に反した「理」の意味を問う感。亡vs.無、物心両面での多次元方程式。思いつく答えを当てはめて、正誤を確かめている徹生。千佳と佐伯。対照的な位置づけの両者の意味深な言動の解明・解消。下巻で明かされるであろうこれらが、解のヒントとなるはず。「穴」、いや~、現実感に満ちた悲しき響き。そもそも論で”選ばれた”意味は何か?2023/10/17