内容説明
キリスト教世界で「裏切り者」「密告者」の汚名を一身に受けてきたユダ。イエスへの裏切りという「負の遺産」はどう読み解くべきなのか――。原始キリスト教におけるユダ像の変容を正典四福音書と『ユダの福音書』に追い、初期カトリシズムとの関係から正統的教会にとってのユダと「歴史のユダ」に迫る。イエスの十字架によっても救われない者とは誰か。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
83
キリスト教における「負の遺産」的存在であるユダをどう読み解くかは大きな課題です。「裏切り者」であり「密告者」。しかし、その汚名だけがユダを語るとすれば、それはある意味問題のように思わずにはいられません。教会のユダと史実のユダのあり方に迫ることで、最も救われなかった使徒・ユダ像を描き出す。しかし、イエスの十字架はユダを受け入れていたというのもまた事実でもあることが興味深いところでした。ユダはイエスに対し最も遠くもあり、最も愛された使徒であったように感じる存在です。2016/11/26
優希
42
再読です。キリスト教で「裏切り者」「密告者」のレッテルを貼られたユダの解き明かしは大きな課題だと思います。ユダだけを語るとすれば答えは出ない。教会と史実のユダを語ることで最も救われなかった使徒であるユダが描けたのではないでしょうか。イエスの十字架はユダを受け入れていたのもまた事実かもしれません。ユダの存在の意味は最も愛され、最も罪人であったと言っても良いように感じました。2023/09/22
Koning
27
ユダの受容史的な感じで、どちらかというとタイトル違うんでない?という気がしなくもなく(何。冒頭佐藤研ぽい共観表でユダ関連を並べたイスカリオテのユダの名前の由来についてのあれこれを紹介した後、マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネ各福音書に描かれるユダのイメージを紹介し、例のユダ書から使徒教父文書、外典偽典のイメージをざっと紹介してからユダ福音書のグノーシス的な内容の解説からまとめ。で、おまけっぽく石原によるユダの図像学が続く。この最後の図像学には様々なユダの図像が簡単な解説と共に並ぶので、そこだけでもいいかも。2015/12/29
みのくま
21
原始キリスト教においてユダは決して悪魔化されていなかった。むしろ、イエスを否認したペテロと同程度の罪深き(弱き)者として捉えられていた可能性すらある。時代が下るにつれ、ユダは教会の罪をも被せられスケープゴートとして悪魔化されるに至る。原始キリスト教において、全ての人間は弱いからこそ原罪を背負わされているという精神は忘れられ、自己肯定感から善悪二元論に堕ちた中世以降のキリスト教。その結果起こった事は、悪魔化されたユダ=ユダヤへの差別の歴史が象徴している。善悪二元論の害悪から逃れる為にユダの救済は急務である。2018/05/11
ひまわり
18
ユダとはただの裏切り者なのか。ユダがいなければイエスは十字架にかかることもなかったし、復活することもなかったのだからユダは存在しなければならない人だった。時代がくだるほどにユダのとらえ方が変わっていくことが興味深かった。人間の思いがあふれてきて。だれかをスケープゴートにしたかったのか。キリストが死んで一度黄泉にくだり、それまでに死んでいた旧約の人々を助け出したというくだりも面白い。そうでなければ天国の意味が失せるだろうから。ますます「ユダの福音書」を読んでみたいと思った本だった。2020/09/16