内容説明
足利家の当主のみが持つことを許されるという鬼切りの太刀。しかし、太刀は今参りの局の里屋敷にあった。日野富子は太刀を奪おうとするが、屋敷神・唐天子の幻戯により苦汁を味わう。が、新たに管領細川勝元の策略が今参りの局に迫る。応仁ノ乱前夜、京に蠢く妖異の世界を鮮やかに描いた司馬幻想文学の傑作。
目次
遠 近
藪のあたり
富 子
沖ノ島
三条河原
北小路殿
年 譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
65
結末がはっきりせずダラダラしているという感想が見受けられるが、まぁこれはこれで、という感じ。室町末期の頽廃した雰囲気と、神出鬼没で首尾一貫しない妖怪、そして流される船のように定まらぬ主人公が上手くマッチしている。現実を忘れて楽しめるという点では、悪くないのでは。司馬さんの作品の、一貫したロマンのようなものが好きな人には、確かに物足りないかもしれない。「将軍になろう」という冒頭が、読者に期待を持たせすぎた感がある。2015/12/08
レアル
56
正室富子とお今の戦いが読んでいて滑稽だし、後継者争いも小難しい事抜きに分かり易く描いており、いつもの歴史小説の作品と比べて異色であるが、ただ単に面白いそんな小説もたまにはいい。とはいえ、きちんとした史実の隙間を縫うようにしてできた司馬氏の幻想小説。主人公源四郎にとってこのタイトル「妖怪」とは一体誰の事を指すのだろうか?なんていろんな事を考えながら、妖怪に振り回されっぱなしの源四郎を素直に楽しんた。2016/10/29
優希
48
幻想の色が濃くなったような気がします。足利当主のみが持つことが許される太刀を手に入れようとする日野富子に襲う幻術。応仁の乱を目前に都にはびこる静寂こそが妖怪なのだと思えてなりません。2023/02/18
カムイ
47
結局、室町時代は曖昧な世界であったのだろうか応仁の乱なんかどうしょうもない争いであった、司馬遼太郎氏が室町時代中期を描くのは異色でもある幻術士を題材するが読んでいるこちらの方が幻惑されっ放しだった源四郎共々と主人公不在の作品になったのは室町幕府の人材不足を被せているのかもしれない、唯一、日野富子が存在感があり強かで悪女を地で行ってます。妖怪は京都に巣食う人々に取り憑く魑魅魍魎であって朧気なものであるから訳わからずに応仁の乱に突入したのだろう司馬遼太郎氏の歴史ものでは異色、スチャダラパー的な落ちであった。2021/07/22
さつき
42
下巻に入ると日野富子、今参りの局の争いがますます盛んになり唐天子の幻術も冴え渡ります。主人公源四郎は本当に「薄味」な男。周囲の人々の思惑に乗せられ、あっちに行ったりこっちに行ったり。はっきりとした自分を持たない人物です。ヒーローでない彼は飢饉や疫病で明日をも知れぬ日々を送る庶民そのままなのかな。司馬作品の女性はいい女風の人が多いですが日野富子の強欲ぶりはあっけらかんとしていて、いっそ清々しいくらい。お今の最期は哀れですが変に感情移入せず描かれていて、その乾いた感じに室町時代らしさを感じました。2016/09/14