内容説明
詩人であり、批評家であり、推理小説の祖であり、SF、ホラー、ゴシック等々と広いジャンルに不滅の作品の数々を残したポー。だがその人生といえば、愛妻を病で失い、酒と麻薬に浸り、文学的評価も受けられず、極貧のまま、40歳で路上で生を終えた――。孤高の作家の昏い魂を写したかのようなゴシック色の強い作品を中心に、代表作中の代表作6編を新訳で収録。生誕200年記念。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
471
6つの短篇を収録するが、これらはミステリーの範疇よりもむしろ、本書が銘打つ「(アメリカン)ゴシック」が相応しいだろう。篇中ではやはり2つの表題作が一頭地を抜くようだ。作中にも詩が含まれるが、これらの作品は散文でありながらも象徴詩―例えばポー自身の詩「大鴉」、あるいは本邦では萩原朔太郎の詩ーの持つ表象を思わせるものである。そして、「滅び」、あるいは「衰微」してゆく逆説的な美がそこに揺曳する。それは「アッシャー家の崩壊」にとりわけ顕著だが、「黒猫」の持つ自己の精神の崩壊への怖れもまた、ポーに固有のものだろう。2022/08/13
そる
307
これがホラーや推理小説の原点、と考えると確かに怖い。ただ今やそのジャンルはたくさんあるので今これを読んでも大したことない怖さ。多分恐怖を煽るためだろうけど、自分語りの心情、考察が長すぎて読み手の私は上滑り。展開する箇所になったら頭がハッと起きる感じ。ただこのお屋敷の暗さ加減とか、影響受けた江戸川乱歩もそうだけど好きな雰囲気です!「こんなふうにして、黒猫との友情は何年間も続いたが、しかしその期間のわたしは酒乱の悪魔にそそのかされて、気質と性格とが(恥ずかしながら告白するが)悪い方向へ変わっていった。」2020/08/15
absinthe
270
『赤き死の仮面』。なんだかこんな時代にもパンデミックものが。不気味な雰囲気と圧迫感がすごい。『黒猫』は超有名で娘に読み聞かせしたこともある。猫そのものよりも主人公の病的な嫌悪感や暴力性が恐ろしい。どの短編もいろいろな仕掛けが暗示的で面白い。2020/03/18
パトラッシュ
218
数十年ぶりにポーを真剣に読み直して、その真骨頂は圧倒的な描写力にあると再認識した。本書収録の6短編では、破滅に至るまでの状況と追い詰められた男の心情が強烈な迫力で描かれていく。死体を壁に塗り込めたり、拷問の恐怖に苛まれたり、滅びゆく家系に屋敷までも運命を共にする物語を夢中になって読ませるのは、情景をありありと再現させる文章の力あればこそなのだ。作家の真の実力は純文学やSF、ミステリなどジャンル分けでなく、読者の心をわしづかみにできる筆力の有無に尽きる。その点でポーは、世界文学の最高位を要求する資格がある。2024/06/02
Kircheis
213
★★★★☆ 200年近く前の古典だが、今読んでも面白いポー短編集。 有名どころばかりが収録されているので、どれも素晴らしいと思うが、唯一怪奇ではなく現実の恐怖を描いた『落とし穴と振り子』が中でも1番好き。 その他、超有名な『黒猫』や『アッシャー家の崩壊』も読めてお得な一冊。 ただしあくまで古典なので、その表現・記述は好みが分かれると思う。2019/06/10