内容説明
太平洋戦争末期、阪神間大空襲で焼け出された少年が、世話になったおやしきで見た恐怖の真相とは……!? 名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、小松左京の家に伝わるおまじないが創作のヒントとなった「まめつま」、謎の生物と神話的世界を交錯させた「黄色い泉」など、小説界に今なお絶大なる影響を与えつづける小松左京のホラーテイスト作品を選りすぐった傑作短編集。小松左京ライブラリによる詳細な解説を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
138
小松左京の作品集です。ホラーもあり幻想的あるいはSF的な話もあるかなり凝ったアンソロジーでした。かなり昔に読んだ覚えのある作品も出てきました。有名な「くだんのはは」は何度読んでも気もち悪さを感じます。また「秘密(タブ)」や「黄色い泉」も何とも言えない感じです。「保護鳥」はかなり怖い感じです。表題作は有名な船の事件を逆手に取った感じです。2023/11/08
ehirano1
136
「くだんのはは」について。確かにホラーなのですが、むしろ哀しいという印象が強いです。また、戦争末期の背景が本筋を際立たせていて巧いなぁと思いました。2023/09/16
藤月はな(灯れ松明の火)
80
人生と心を狂わせる戦争への作者の怒りが込められているのが「くだんのはは」と「召集令状」だと思う。前者は軍国少年が終戦に至るまでに心が荒んでいく様子が当時の生活と同時に展開される。また、件の恩恵を受けられるのは他者を虐げる形で栄えてきた者であるというルールに震える。後者は戦争を知らない世代から馬鹿にされ、虐げられてきた父の最期に絶句。『キンドレッド』、『ゲッペルスと私』などのように「自分が当時の人間だったら現状への抵抗はできるのか」という問いが導くのは、自己不信。それを知らぬ者への最悪の復讐ともいえよう。2023/04/16
眠る山猫屋
72
感心しかない。それくらい素晴らしい作品集だ。1960年代からの十年間に書かれたものだが、少しも色褪せず面白い。分かり易く読み進められるし、内容もシャープだ。背筋がゾクゾクする物語、心を幽世に引き込まれるような感触。凄い。最近の読書体験とは水準が違うとさえ感じた。SFテイストも多かったが、不安感に日常が揺らぐような完成度の非常に高い短編集だった。小松左京恐るべし。2020/07/05
かぷち
53
最近ホラー熱が再燃してきて紹介もあり読んでみたが、思っていた以上の傑作短編集だった。所謂怖がらせる系のホラーではなく、読んでいてじわじわとくるタイプで好みでした。小泉八雲等の古き良きテイストを残しつつもモダンとの融合を試みている、実験的に感じる話も多かった。日本独特のゾクゾクする怪奇小説、最近は数が減ってきて悲しい。文化として残って欲しいし、もっと読まれて欲しい。2023/06/21