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内容説明
日本人研究者による待望の入門書、登場! 世界を創造した神は〈善〉か〈悪〉か? 「人間は<偽りの神>が創造した偽りの世界に墜とされている。われわれはこの汚れた地上を去り、真の故郷である<天上界>に還らなければならない」――誕生間もないキリスト教世界を席巻した<異端思想>。膨大な史料を博捜し、その実像に迫る。(講談社選書メチエ)
目次
まえがき
第一章 紀元二世紀という時代
第二章 ウァレンティノス派
第三章 バシレイデース
第四章 マルキオン
第五章 グノーシスの歴史
第六章 結びと展望
付録 ナグ・ハマディ写本とは
文献案内
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
70
〈異端〉という響きからくるマイナスイメージを払拭。史料も乏しく、不分明な点の多いグノーシスとは何かを、非常に理解しやすくまとめてくれた絶好の解説書。2世紀における少数派とはいえ、後に新約聖書として固定されていく文献相互の矛盾点を解決しようとした流派であったと理解した。原典本文を提示する学術文庫の『グノーシスの神話』にも出てきた「存在しない神」という概念や世界観について、本書によってようやく少しは理解できたと思う。特に、読んで感じる疑問点を、そのつど読者を考慮して説明する親切さは、実に爽快な解説だと感じた。2023/05/04
マウリツィウス
21
【教会史に潜む『異端』】「グノーシス主義」はラテン語訳化された「信条」よりも起源史に位置する意味で実際面に教会史にとって脅威となる。新約聖書史上否定せざる負えない『トマス』存在をも吸収した「異端セクト」が通過することが可能となった理由は「新約カノン寄生」という選民性質に十分に取り入ったからとも呼べる。カール・バルト以前に異端を論破殲滅したパウロ書簡の功績は讃えられるべきだが、『ローマ書』の否定論すら先手を取っていたグノーシスを突破するために「教会史」が選んだ選択肢は「殉教」と「賭すべき信仰」、根深い因果。2013/07/22
マウリツィウス
21
【グノーシス定義】ハルナックからバルトへ使徒信条が正当奪還されることで虚構言説の密林は取払われ知識と生命の樹は楽園の姿を取り戻す。トマスからマルキオンの系譜はカタリ派や大衆メディアを介して蠢く異端思想、教会史を揺らがした軍勢に向けて『ヨハネ福音書』は受肉の言葉を残しその意図を表明/パウロが書簡において反駁を許さないヴィジョンを明示することで一時消滅した。サイクルに乗じ幾度も増殖する異教擬態神学はイエスの荒野の試練にて既に克服され黙示録の結論で永久の沈黙を果たした。異教/異端混淆集合を福音書は見過ごさない。2013/05/03
serene
20
これ一冊だけでグノーシスが何たるかを理解できるはずもないのですが、 これまで抱いていた漠然としたイメージを改め、キリスト教の誕生間もない世界で芽生えた異端思想のひとつであること、その教説、性質、影響などが大まかに把握できてよかったです。 ふと感じたことなのだけれど、彼らはそれを本当に信じていたのかな? ひらめきの瞬間はもちろん信じていた、というより悟った、否「認識」したと思ったとして、神話をこしらえてゆく中で、それが「創作」にすり替わってしまうことはなかったのだろうか。 2013/08/06
em
19
今後「ヒト」はどうなるのかというテクノロジーと絡めた話で、よく引き合いに出されるグノーシス主義。改めて読んでみると、そう捉えられるのも無理はないと思えてくる。人と機械が融合する未来は、霊(精神)が肉体から自由になる、新たな世界への移行とも読めるから。考えてみるのは面白いし、まさに今、妙な現実味を帯びて見える。どの時代にあってもこんな錯覚をさせるのが、長く人の心をつかんできた異端たるゆえんなのかもしれないけれど。2018/09/06