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内容説明
妻お直と弟二郎の仲を疑う一郎は妻を試すために二郎にお直と二人で一つ所へ行って一つ宿に泊ってくれと頼む…….知性の孤独地獄に生き人を信じえぬ一郎は,やがて「死ぬか,気が違うか,それでなければ宗教に入るか」と言い出すのである.だが,宗教に入れぬことは当の一郎が誰よりもよく知っていた. (解説・注三好行雄)
目次
目 次
友 達
兄
帰ってから
塵 労
解 説(三 好 行 雄)
注 (三 好 行 雄)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
61
最高レベルの知識人の苦悩を描いていた作品として有名だが、他人の心が読めなくて苦しむというのは知識人だけの問題ではないと私は思う。相手の心など読めないからこそ、誰もが相手のことを気を遣ってコミュニケーションを取っている、それが大切なことなのだということを、漱石は分かっていないのだろうか。確かに賢すぎ、潔癖すぎるるがゆえに、そうでない者との間に確執ができるのは分からないでもないが、結局は夏目家、漱石個人の問題であって、一郎がすべての知識人の代表であるかのように書かれるのはどうにも納得がいかない。2017/05/19
Y2K☮
58
漱石は一途な男だ。又しても「頭で生きない恐れぬ女」が登場。「彼岸過迄」の須永が千代子と結婚した後の物語。須永に当たる一郎の妻への疑念は実は正しい。何が起きても逆らわずに夫の一切を受け止めるお直が意図せずに発する義理の弟への誘惑は漱石自身が嫂に感じたものか。後半の一郎は繊細過ぎる神経に苦しみ、自他の区別を超越した絶対的存在へ至る事に救いを求める。エヴァンゲリオンの「人類補完計画」を思い出した。宗教も進歩主義も彼の鋭敏な頭には欺瞞としか映らない。彼はやがて「こころ」の先生になる・・・真面目過ぎる知識人の悲劇。2015/12/17
ころこ
35
「直はお前に惚れてるんじゃないか」岡田とお兼の関係(①恋愛)、佐野とお貞の関係(②非恋愛)、三沢と娘さん(③果たされぬ恋愛)とあり、これが近代の恋愛関係の①婚姻と③非婚姻、前近代の②非恋愛の3パターンに当てはまります。一郎と直は③の近代の非恋愛です。江戸時代であれば長男と次男は殿様と家臣であり、一郎と二郎の関係はその様に描かれます。元殿様であった方が元家臣に頼みごとをする。直の運命は現実の②ではなく①ではなかったのか、もしくは③だったのではないか。日本近代文学は個人の問題(二郎)を主題とし、公の問題(一郎2020/11/26
tom
16
週1回、電車で通う鍼灸院の行き帰りに読んでいるのが夏目漱石。そろそろ漱石本体験も終わりに近づいてきた状況。それにしても、この本、4分の3までは、どんな展開になるのかと、いくぶんワクワク気分で読み進めたのだけど、最後のシーンに至って、登場人物のみなさん(一郎さんも彼の奥さんも、語り部の次男坊も)どうなってしまうのよと、欲求不満が大量に残ってしまうことに。漱石さんについては、文体も含めて、読ませる小説家に成長したという感想があるのだけど、うーむ、こんなことばかり考えていたら、さぞかしお疲れだろうと少々同情。2017/03/15
タカヒロ
15
「君の心と僕の心とは一体どこまで通じていて、どこから離れているのだろう」 二郎の言う通り、他人の心なんて分りっこない。それはどこまでいっても自分の心であって、自分の中の幻想にすぎない。嫂の心、二郎の心、自らの頭の中で増幅していく「不安」に掻き立てられ続ける、認識の人としての一郎。万物と一体になり、絶対も相対もない世界に生きる日など彼には来ない。 近代の家族制度の問題、「女」の問題など、いわゆる近代知識人だけではない広い問題を抱え込む小説。2023/08/20