内容説明
戦局傾いた昭和一九年八月、沖縄から本土に向かった学童疎開船「対馬丸」はアメリカ潜水艦の魚雷攻撃を受け、深夜の海に沈んだ。乗船者一六六一名、うち学童八〇〇余名。生き残った学童は五〇余名に過ぎなかった。戦争完遂のため、次代を背負う若き国民を護るため、という大義名分のもと、国策として実施された疎開事業における最大の悲劇である。その歴史的全貌を伝える名著。(解説・佐藤優/作家・元外務省主任分析官)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
駄目男
10
魚雷が命中するという衝撃は私たちには解らないが沈み行く船の上からは大人たちが無理やり子供を海に投げ込んでいたらしい。 筏でもなんでも掴まってとにかく船から離れろと。 それからというもの飲まず食わずで何昼夜も海中に浮いて救助を待つ心境とは如何なるものか。 多くのものが鱶に喰われ夜は寒く昼は日焼けに悩まされ、疲れて眠る者は打ん殴られて叩き起こされたとか。 睡眠を即ち死を意味するからだ。 ご冥福をお祈りしたい2015/04/02
hatasatohito
9
子供の頃にアニメ映画「対馬丸-さようなら沖縄-」を見て以来、ずっと興味があり類書も含め読んできた。このタイミングで講談社文庫から改訂版が出たのがとても嬉しい。本書のあとがきにも、この本の歴史が綴られているが、遺族会からの依頼を受け、生存者や遺族からの取材を重ね、最初に刊行したのが1961年。それから50年以上も経ち、対馬丸事件からは70年以上も経つのに、乗船時の混乱のために巻末に載せる犠牲者名簿ははっきりせず、改訂を重ねているという。今回は本文も改めており、改訂を続ける大城立裕氏や遺族会の執念を尊敬する。2015/05/03
Ikuto Nagura
8
はじめは何て読み辛い作品かと思った。たくさんの子どもや親たちと教育者たちの名前が出てきて、さらに彼らのエピソードが次から次に並列されて、視点を固定できなかったからだ。しかし、遭難した1600余名、みなそれぞれに名前があり人生があった。それらを思うには、巻末の遭難者名簿とともに、こういう記述方法が必然なのだろう。「その犠牲を見つめることは、親の責任を見据えることであり、その親を導いた国の責任を問うことになる。歴史を見通すこころでいえば、おとなの責任を永遠に問うことである。私たちは、それに耐えられるだろうか」2015/08/06
あかりんご
7
子供の頃にアニメで見てとても記憶に残っていて、今回改訂版が出たのを見てさっそく読んでみた。アニメを見ていたのもあり、悲惨さが伝わり、より詳しい情況もわかり、胸が締め付けられる。緻密な取材とそれを書き起こしてくれた著者に感謝しかない。沖縄、軍部、対馬丸のその時の情況がとてもわかる。附録の名簿が痛ましい。これでもまだ完全に把握してないとは・・・2015/06/01
牧神の午後
4
戦争の犠牲者はいつだって真相を知らない無辜の民。しかも学童疎開だったもんだから、巻末に掲載された名簿をまともに見られない、本当に胸が痛くなる。もちろん遭難してしまった人々の悲劇にはどれだけ言葉を尽くしても、哀悼なんで軽くなる。しかしそれ以上に重いのは、人々への悪影響を恐れ沈没したという事実を伏せようとした軍部の愚行。生き残っても家族にすら真相を伝えられなかった人々の想いを想像するにあまりある。2017/08/29