内容説明
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ある日、バスの中で起こった他愛もない出来事が99通りもの変奏によって変幻自在に書き分けられてゆく。
20世紀フランス文学の急進的言語革命を率いたクノーによる究極の言語遊戯。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
86
Toi booksで購入した美しい装幀の本。同じ内容の事象についてのクノーの99種類もの文体に笑いながら読んでいたが、原文であればフランス語を学ぶ人にとっていいお手本となるだろうし、翻訳者の朝比奈弘浩氏の日本語への変換もまた流石である。ギリシャ語法を枕草子風にしたり、ラテン語もどきを漢文にしたり、一番笑えたのはイタリア訛りをいんちき関西弁に変換した文章。幾何学、集合論、ソネット、定義、平行移動など奇想天外な文体に舌を巻くばかり。クノーはバッハの「フーガの技法」を聞いている時に、この本の着想を得たらしい。2020/10/23
ユメ
62
「その日の昼、俺はS系統のバスを担当していた。慣れっこだけど、この時間帯はひどく混んでうんざりするね。後ろの方に二十代ぐらいの変な男が乗ってたよ。ミラー越しにも見えたんだ。人混みの中から、ひょろ長い首が突き出てるのがね。妙な帽子を被っててさ、紐が巻いてあるんだよ。俺ならあんな帽子でバスに乗るのはごめんだね。そいつ、隣の客に文句を言いだしてさ。大方、ぶつかられたとか何とかだろう。あれだけ人が詰め込まれてりゃあ、よくある話さね。席が一つ空いた途端、すっ飛んで行ったよ。器の小さい男だな。→2015/09/08
zirou1984
62
凄い、凄すぎるぞこの本は。何でもない日常の一コマを、99の異なる文体で表現するというとんでもないコンセプト。読めば読む程、当たり前の風景にこれ程の多様な視点が存在するのだと驚愕し、表現によってこんなにも言葉は自由に遊び回れるのだと感嘆させられてしまう。翻訳も直訳的表現を抑え、意味よりも技巧を意向した訳によって逆説的に日本語の芳醇さを示し出し、丁寧な装丁は本作の意匠にぴったりの衣装となる。ここでは言葉が踊り、言葉が楽しんでいるのだ。最高のスキルとセンスとユーモア。いやぁ、豊かさってのはこういう事でしょう。2013/11/15
えりか
57
面白い。著者はもちろん、訳者が素晴らしい。日常の風景を様々な文体で伝える。その数、99通り。同じ内容なのに、文体が違うだけでこんなにも印象が変わるなんて。文字列が数学的変換になっていたり、女子高生言葉になっていたり、楽しい。最後、99番目「意想外」にはドキリとして唸った。確かに普段私たちは臨機応変に文体を使い分けている。それを意識させられたとともに、言葉遊びの面白さ、言葉の無限の可能性も感じた。言葉は変幻自在だ。そして刻一刻と成長している。言葉は人に寄り添ってもくれるはず。これはずっと手元に置いておく。2017/12/21
Y2K☮
49
再読。実質はクノーと訳者である朝比奈氏の共著に近い。「帽子に編み紐を巻いた首の長い男が混雑したバスに乗り、靴を踏んだ客と口論。だが席が空いたらすぐ座りに行く。二時間後、広場で見かけたその男は別の男からコートに付けるボタンに関して助言を受けていた」この出来事を99通りに変奏。似非関西弁、似非英語、アナグラム、七五調、枕草子調・・・それなりに対応できる日本語の柔軟さに驚くし、話し言葉を厳密に文章に移す著者の実験も興味深い。こういうのを書きそうな日本人作家が一人思い当たる。カムオン道化師、これはプロローグです。2016/12/04
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