内容説明
人間と国家のエゴイズムが、生き方や愛を狂わせていく様を描く長編小説。
貴乃、完治とその父・伊之助たちの須田原一家も、一儲けするべく樺太に渡った。孝介の真意を汲みかねる貴乃は、複雑な思いで孝介と親戚付き合いを始めたのだが……。そして、平和に見えた樺太にソ連軍が侵入してくる。主人公・貴乃を含めたそれぞれのエゴイズムが、そして国家エゴイズムが人間の運命を狂わせていく。運命や自然に翻弄される純愛を通し、十字架を背負った人間たちのドラマを描く長編小説。
1977年(昭和52年)にテレビドラマ化され話題を呼んだ。
「三浦綾子電子全集」付録として、夫・三浦光世氏による「創作秘話」を収録!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
147
やっぱり?そういう流れになったかぁ〜。ありとあらゆる人物が登場しますが、ほとんどの人が本当の幸せとは何かを悩み、迷いながら進んでいく話の展開は壮大な人間ドラマでした。特に下巻は戦争の影も忍び寄り、彼らに更なるドラマを用意してくれています。「孝介」と「貴乃」の二人がお互いを想い続けるこの上ない純情な恋愛に胸が締め付けられます。本当の幸せとは、どんなカタチが望ましいのか、家族とのつながりは、そして何より自分の幸せとはなんなのかをあらゆる視点から深く考えさせてくれます。壮大な人間ドラマにとにかく感無量です。2021/06/05
も
50
貴乃と孝介、愛し合いながらもいつもどこかですれちがってしまうふたり。結局心から幸せだと思っているひとは誰もいなかったんじゃないだろうか。上巻で完治には 腹が立ったけれど、後半は哀れみのほうが強かった。2016/12/31
TATA
42
非常に重厚な物語だった。戦前の樺太を舞台とした愛憎劇、そこに戦争という強烈な悲劇を盛り込んでもなお、しっかりした人物像とストーリーを描ききる筆にただただ感服。三浦綾子さんは初めて読んだが、やはりこのクラスの作家さんの力量にはうならされる。実家の母から譲り受けた一冊。時代を経てもその力は少しも毀損されるものではないのですね。2018/03/16
ach¡
42
なんて恐ろしい物語なんだ。報われずとも一途な思慕を貫き真実に生きる美しさとは裏腹に、それゆえ全員が不幸になっている最悪パティーンではないかぁ…感動の悲恋物語ではないよコレ。「人は生きている限り、誰かを傷つけずには生きられない」結局、完全な悪党もいないが清廉潔白な人間もいない。だからこそ、人生に胡坐をかいて生きてしまうのか、自分を戒めながら生きられるのかってことなんだが、なんだかな~珍しく救いのない結末。幸せだけを受けとれないのと同様、不幸だけで終わる人生もない。ってことで無理やり救いを見出すしかないのぅ2016/02/26
まーみーよー
30
三浦さんらしくやはり一筋縄ではいかなかった。下巻も上巻に引き続きドロドロな展開で始まる。一歩間違えればR指定のギトギトな愛憎劇で終わりそうな勢いなのだが、後半、終戦前後の南樺太へのソ連侵攻からガラッと空気が変わる。「泥流地帯」でもあった善因善果、悪因悪果ではない世の中で、人間は互いに傷つけ、傷つきながら生きている。色と欲にまみれた完治親子はもちろんのこと、自分が耐え忍べばそれで良いと思った貴乃達も結果として家族を傷つけている。三浦さんの人間観察は、深い。しかしどの登場人物にも共感し難かったのでした。2020/06/23