内容説明
激動の時代を描く三浦綾子の長編小説!
昭和16年、思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で竜太は、7か月の独房生活を送る。絶望の淵から立ち直った竜太に、芳子との結婚の直前、召集の赤紙が届く。入隊、そして20年8月15日、満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口をつきつけられる。思わぬ人物に助けられやっとの思いで祖国の土を踏む。再会した竜太と芳子の幸せな戦後に、あの黒い影が消えるのはいつ……過酷な運命に翻弄されながらも人間らしく生き抜く竜太のドラマ。
「第1回井原西鶴賞」受賞作品。三浦綾子、生前最後の小説。
1996年(平成8年)、NHKで「銃口 竜太の青春」としてテレビドラマ化され、作品が第14回ATP賞‘97奨励賞を受賞した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三代目 びあだいまおう
292
とても素晴らしい!戦前の言語思想統制の非道さから、戦時の満州、戦後GHQの介入、それまでの現人神なる天皇崇拝・軍国主義から日本全体の思想がひっくり返る様子まで、染入る様にわかりやすく紡がれている。様々な物語を入れ込むスタイルを取らず、主人公竜太の一人称視点で語り通した効果か。戦前の言語思想統制、戦中軍の振舞いや言動は日本の歴史的恥部といえよう。清らかで美しき心と深き真実の愛を貫いた芳子さんは我が読書人生の中で出会った最も素晴らしい女性。戦後75年、戦争を知る世代最後の時代に相応しい日本人必読の良書‼️🙇2020/08/20
おしゃべりメガネ
141
そのボリュームが物足りないと思えるほど、圧巻の作品でさすがは下巻だからか読む手が上巻以上にとまりませんでした。赤紙により戦地へ召集されてからの話が書かれてますが、改めて戦争の悲惨さが伝わります。本作を読んでいて、ずっと思っていたコトは良くも悪くも'因果応報'があるのだなと。そしてそれはやはり他者に対して、損得ではなく、無償の行動としてするべきだなと。哀しさもありながら、生きるコトへの決して諦めないキモチや「芳子」への一途な想いがステキでした。超大作ながら、何度も何度も読みたくなる素晴らしい作品でした。2021/06/11
lily
56
音響も合わさってAudibleの臨場感、緊迫感が凄い。ちょこちょこ胸が熱くなったり、泣いたり。三浦綾子の哲学が、信仰心が、情熱が、主人公の魂にそのまま宿っていて、主人公を信頼したままに安心して、共鳴できる。読了後は、更に精神が強化されたよう。2024/06/10
zero1
47
戦争は兵士だけではなく、多くの人の希望を奪う。中国、朝鮮もそうだ。特に下巻は主人公の竜太に厳しいことが続き、読むのが辛い。その中にあって竜太を支える人たち。世の中捨てたものではない。どこかに救いはある。読んでいて中国残留孤児を描いた「大地の子」とシベリア抑留が出てくる「不毛地帯」(ともに山崎豊子)を思い出した。大陸からの引き上げという点では「流れる星は生きている」(藤原てい)も似たテーマを描いた。これだけ戦争について学べる作品があるのに、学ばないのは日本人としてどうなのか?これは自虐史観?理想主義? 2018/10/28
piro
43
無実の罪での7ヶ月に渡る勾留、そして解放後、芳子との結婚直前での召集。竜太の人生を踏みにじる様に過酷な運命が襲います。そんな戦争という異常事態の中でも、人間らしい考えを持ち続ける事ができた人達は確かに存在していた。その様な人達のお陰で竜太は生き延びる事ができ、正しい人格を得る事ができたのだと思います。三浦さん晩年の本作は、終戦まで教職にあった三浦さんにとって、自分が戦前・戦中に成した教育に対する悔恨の念と、かつての教え子達に何としても伝え直したかった思いが込められた作品なのではないかと感じました。2020/12/20