内容説明
小学3年生、母を亡くした夜に父がつくってくれたわが家 のトン汁を、避難所の炊き出しでつくった僕。東京でもどかしい思いを抱え、2カ月後に縁のあった被災地を訪れた主婦マチ子さん。あの日に同級生を喪った高校1年生の早苗さん…。厄災で断ち切られたもの。それでもまた巡り来るもの―。未曽有の被害をもたらした大震災を巡り、それぞれの位置から、再生への光と家族を描いた短篇集
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zero1
144
この国に住む限り、地震はある。本書は重松らしい、311の震災をテーマにした短編集。母親を失った家庭の名物になった「トン汁」。被災地に自分の痕跡を見つける「おまじない」。高校入試後、釣りに出かけて行方不明になった友人を描く「しおり」。カレンダーを被災地に贈る「記念日」。原発事故の影響を受けた土地での夏祭りの厳しい現実を描く「帰郷」。津波で亡くなった教え子の写真を探す「五百羅漢」。津波で亡くなった両親が北海道で申し込んだ物を見に行く「また次の春へ」。重松のエールを我々はどう受け止めただろう?2018/12/01
藤枝梅安
128
すでに文庫に収録されたものも含め、改稿を施した7つの短編。災害や家族の死を「厄災」という言葉を使い、その前後の人々の生活・思いなどを綴った作品群。熊谷達也さんの「仙河海」シリーズでは登場人物たちの長年にわたる関係性をじっくり描くのに対し、この短編集はそれぞれの人物の感情に焦点を当て、感動的な作品に仕上げている。「泣かせる」点では重松さん、「重く受け止めさせる」点では熊谷さんに共感する。読者層が違うかもしれないが、私は熊谷さんをずっと読み続けているので、重松さんの「泣かせる」小説はちょっと苦手である。2016/03/23
昂 ふたたび
108
震災の重い話しでした。どれも実話なんだろうと。私の知らない世界がありました。記念日のカレンダーにしても、良かれと思っても。難しい話し。「信じてます。が、祈ってます。に」胸に刺さりました。心から願います。「次の春も、また次の春も、おだやかな暖かい日がつづくといい。」と。2015/07/27
あつひめ
99
震災によって断たれた未来。そして、それまでが過去となってどんどん遠ざかる。泣けばいい?悲しめばいい?忘れたらいい?毎日を笑顔で送れば…安心してくれる?人の死を認めるとき、果たしてどうしたら亡くなった人の心を弔うことができて、自分の心もまた生きることへ向かわせられるんだろう。重松さんは無理に奮い立たせようとはしない。でも、ちゃんと向き合うように過去を思い出し、悔いをなくするように死者と向き合わせる。その日を、あの、荒れた海を忘れないのではなく、その日までの笑顔の数々を忘れないことが復興の力にもなるだろうか。2014/09/18
舟江
83
読書会のために読んだ。3.11をテーマにした短編7編。さすがに7年も経つと色あせてしまう。「帰郷」は、同月中に書かれたもののようだが、東電の出鱈目振りが書かれておらず、それだけが残念の一言である。2018/02/26