内容説明
時代を超えた衝撃の名作短編を収録。
幕末から明治を舞台に描いた山田風太郎の名短編を、文芸評論家・日下三蔵氏の編により収録した短編集。大きく変わっていく激動期に、あるものは自らの意志を貫き、あるものは時代に翻弄される人生を送った。
無念流の免許皆伝の腕をもち、佐久間象山の下では、勝麟太郎とならぶ俊才と目されていた、立花久米蔵。蘭方の医者でもあり、妻は外国人の血を受け継いでいた。そんな彼が、黒船渡来で攘夷を唱える声に、異論を述べたことから悲劇が始まる、「ヤマトフの逃亡」。
火事のため、伝馬町の牢屋敷から囚人の切り放しがあり逃げてきた、高野長英の最後までを描く、「伝馬町から今晩は」。
ほか全七編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sam
46
忍法帖シリーズと明治ものの狭間に書かれた時代短編小説を日下三蔵が編んだもの。自分は明治ものが好きだけどいわゆる「プレ明治もの」にも傑作が目白押しである。本作はタイトルの通り主として幕末が舞台。立花久米蔵、鳥居耀蔵、芹沢鴨といったまさに妖人が登場する(最後に名前が明かされる構成は京極夏彦の「弔堂」が頭に浮かぶが山田風太郎がその嚆矢なんだろうか)。巻頭作からして熱量とダイナミズムに溢れた傑作であるし、それ以外の作品もみな素晴らしい。読後おさらいすることでよい歴史の勉強にもなった。2025/05/17
国士舘大学そっくりおじさん・寺
27
堪能。別の短篇集で既読のものばかりだが、本来のこの書名の本でまとめて読みたかった。理由は日下三蔵さんの編者解題(これも良い)の通り。数年振りの再読だが、改めて面白い。『からすがね検校』希望の物語だ。『ヤマトフの逃亡』ラストのゲスト!。『おれは不知火』最後の一行!。『首の座』切支丹と江藤新平の妙。『東京南町奉行』勝と福沢の対決。『新選組の道化師』芹沢可愛い。『伝馬町から今晩は』の悪夢。読むべし!。2013/02/19
きょちょ
23
幕末7人の人物を描く短篇7作。 ただ、「明治小説全集」と重なるのが3作。 「からすがね検校」は、柳生家と勝(海舟)家の因縁。柳生の当主が勝海舟の親父に勝てなかったとは、柳生も落ちたものだ。 「ヤマトフの逃亡」は立花久米蔵、ロシヤへ逃げるが日本で活躍したらどうなっていたか。「伝馬町から今晩は」は高野長英、この人も生きながらえていたらなぁ、と同情する。 「新撰組の道化師」は芹沢鴨、本人は「道化」のつもりは全くなく、結果「道化」と言われてしまったが、新選組に入らなくても似たような結末を迎えたのでは? ★★★★2017/09/27
tonpie
22
かつてウォーレンバフェット(米国投資家)は「企業成長は経営トップの欲望の大きさに比例する」と言った。 山田風太郎の描く幕末の妖人たちは、経営者でもトップでもないが、その欲望はバフェットの投資欲をそそるに十分なレベルにある。天下を動かしたいというとめどない欲望と情熱と才気。剣術と色欲と名誉欲。幕府と武士道の崩壊しかかった、混沌とした時代を、彼らはのたうち回る様に生きる。「戦中派虫けら日記」の作者が描くと、英雄はかくも魅力的にダークになるのだ。勝海舟の盲目の祖父を描く「からすがね検校」が最も印象深かった。2021/12/28
ヨーイチ
18
実の所、購入の際かなり逡巡した。買うかどうか、全三巻中何冊買うか、何れを買うか、ここまで悩むのも珍しい。持ち合わせに余裕が無かったせいもあるが、優柔不断なことである。最も愛する山田風太郎明治物である。悩むことなど無いはずだが、半分が既読の短篇集だと流石にパクリとは食い付けない。結局中途半端にも1と2の二冊購入。恐らく3も買うことになろう。初読の「からすがね検校」は「この名前、どっかで読んだなあ、誰だっけ?」と思いながら終末で、サッと腑に落ちる。続く2013/08/09