内容説明
自然主義文学の泰斗が、日露戦争以降から敗戦までの文芸・演劇・美術の変遷を回想。団菊以後の左団次、島村抱月の活躍、そして新風の如く登場した荷風や花袋へのオマージュ、江戸趣味や洋行の影響を受けた文学者たちの姿を描く。大逆事件や戦時下の言論制約のなかでの揺れ動いた芸術運動を冷徹な視点で描く文学的自叙伝。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かもめ通信
24
明治末期から昭和30年代まで、新聞の芸術欄担当者として、また自ら筆をとる文筆家として活躍した正宗白鳥の文壇回顧録。紅葉、漱石、鴎外、花袋、藤村等々同時代を生きた文士たちを評する視点がとりわけ興味深い。 2016/03/28
ハチアカデミー
8
正宗白鳥という作家は、けして小説が巧いわけではない。長く生きたため、文壇の生き字引として、いくつかの回顧録を残しているのであるが、そちらの方が力が抜けていて面白い。本書もはやり、島崎藤村を軸に、逍遙に教えを請い、二葉亭らとも公私で接した経験談を基にした文学談である。経験が即文学史となった希有な存在として、白鳥は際立つ。そして、ある種平凡な、己の価値判断を強く打ち出さないあたりが、資料としての価値も高めている。断片的な正編より、続編の方が読み所が多い。特に文学を憂う「四 文学の行衛」が良い。2013/08/28
シンドバッド
6
白鳥の作家論と本書は、明治期から昭和期までの文学批評として、私には、逸品。取り上げられた作家の著作を読み返すことはないものの、白鳥の史観に、納得する所、多々あり。2015/04/28
クリイロエビチャ
3
明治~戦後までを文学者として生きた正宗白鳥の文芸論評。鏡花ファンの私は、なにか言及されているかなと期待したが、興味が無かったようで、ほんの数か所出てきただけ。ただ、漱石や鴎外までも赤裸々な告白の世界に追い込んだ花袋、その影響を受けなかったのは鏡花一人だ、という意の記載があってムフフと満足。文芸にはいくつものブームが生まれたけれど、流されることなく我が道だけを追求したのは鏡花一人なのだ!あとは、誰の文壇史を読んでもそうなのだけど、好き嫌いをオブラートに包まず言うのでおもしろい。ゴシップ誌的な愉しみ方がある。2013/05/24
フリウリ
2
「文壇五十年」の初版は1954年。太平洋戦争でみなが軍国主義に呑み込まれていくなか、正宗白鳥は、自分自身も含めた文学者が戦争に反対しえなかったことを、仕方がなかった、と総括しているが、なかなかの覚悟であると思う。過去を振り返って「こうすればよかった」とは、言おうと思えば誰でも言える。しかし、そうしたところで自分の行動を取り消せるわけもなく、また、そうするところの動機がきわめて打算的なことは、世の常である。起きたことをありのままに受け止めて、書く。それ以外には仕方がない。これは文学者の覚悟であろう。72023/01/27