内容説明
一日おきに三枚ずつ渡されるニセ札をつかうことで「源さん」との関係を保とうとする私。しかし、その「ニセ札」が「ニセ」でなかったとしたら……。ニセ物と本物の転換を鮮やかに描く表題作ほか、視覚というテーマをめぐる不気味な幻想譚「めがね」など、戦後文学の旗手、再発見につながる七作を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YM
51
装丁買いです。クラシックな黒ぶち丸めがねにダンディーな口髭(高橋幸宏みたい)+猫さん。こんな風に年取りたいなあ、それだけの動機で恥ずかしながら著者のことは全然知りませんでした。本書で大島渚監督、白昼の通り魔の原作者と知ってビックリ!表題作はオフビートな人間ドラマでしょうか。ニセ札を渡す人と、それを使ってお金にかえる人のお話。ニセ札というニセモノを通じて、ほんとのつながりを求めてる。でもニセモノゆえに交わることができない。ちょっとずれたとこがおもしろい。ラストもさわやかで、すきな感じでした。2014/11/14
藤月はな(灯れ松明の火)
23
ミステリー、下品なラブコメ、百合、SF、パニックものと盛りだくさんの「「ゴジラ」の来る夜」は「動物農場」も描かれていた平等とは異なる、権力もなく、本当に平等であるが故の凶暴さを描きながら世界の終末と旧約聖書めいた結末になっている予測のつかなさが凄かったです。強姦魔とその家族や関係者の関係から「恋愛」を描いた「白昼夢の魔」、未必の事件から故意の殺意への転換と結末が印象深い「空間の犯罪」も良かったです。眼鏡なしの世界の壮大さと美しさにハッとさせられた「めがね」で紹介されていた「心眼」は一度、観てみたいです。2013/01/14
Syo
14
ちょっと古すぎたか2023/12/15
ハチアカデミー
14
C+ 武田泰淳はひとをニヤリとさせるのが上手い。腹を抱えて笑うのではなく、「ふっ」とか「へっ」とか。それは泰淳のめがねに秘密があるに違いない。日常も、新聞やテレビのニュースも、小説や映画も、そのめがねを通して見ることで、普通ではない小説に仕立てられる。泰淳のあまり知られていない短編作品を集めた本書では、泰淳めがね効果によるおかしさを堪能することができる。にせ札を使ううちに、本物のお札すらにせさつのにせものとなってしまう表題作を始め、本物と偽物、事実と嘘が転倒する作品も多い。大傑作『富士』の変奏曲集である。2012/09/30
YO)))
13
猫ジャケが素敵すぎる.奇妙な味,と呼びたくなるような,どうにもすっきりしない,だがそれ故に後を引く味わいの七編.メガネ好きには堪らない「めがね」,掛けたり外したりの視界のコントラストが映し出す,或いはぼやかす,儚く薄幸な男女の愛.不条理な運命に導かれるようにガスタンクを登る男を描いた「空間の犯罪」も,ペーソスと幻想味が滲み出ていてよい.表題作の主人公は,ギター弾きというのもあって,なんだか深沢七郎みたいだと思ったりもした.2013/02/05