内容説明
東日本大震災を契機に交わされた迫真の24通。仙台近郊で罹災して以後、被災地から言葉の恢復を探る佐伯と、震災後と戦後の風景を重ねつつも、そこに決定的な違いを見出し、歴史を遡るなかで言葉の危機と可能性を問う古井。大きな喪失感のなかで、いま文学が伝えるべき言葉とは?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夕暮
8
震災を体験し、言葉では語り尽くせない体験をしたとしても、言葉で表現することをあきらめない純文学の二大作家が、懸命に言葉を紡いでいる。2017/03/26
とまと
7
朝日新聞に連載していたときの切抜きを、父が全てとっていたので、見せてもらった。ちょうど佐伯一麦『還れぬ家』を読み終えたのだが、副読本としても読める。中身はもちろん重複している箇所も結構ある。上滑りしているとは私は感じなかった。2013/04/26
がくた
2
佐伯さんのともすると格好をつけ上滑りする手紙(知人がよく出てくる むずかしめの単語を使うなど)を古井さんが諌めている印象を受ける。一つの手紙が短く、やり取りの変化は楽しめるが深さは変わらない印象を受ける。 なんで佐伯さんなんだろう。前のも思った。 値段が高い。2012/08/10
村上駿斗
1
東日本大震災を契機にはじめられた、古井由吉と佐伯一麦の往復書簡。人智を超える、との言葉すら恣意に感じられてしまうほどの厄災を経験し、沈黙せざるを得なくなった人間は、再び言葉を紡ぎ出すことが出来るのか、「言葉の兆し」を掴めるのか。戦争の焼け跡と被災地の「土」の違いに目を向ける古井の言葉から、被災当日の記憶、戦後復興の死角、灯籠流しや日本の詩歌をめぐって、二人は「言葉によって言葉の兆し」を探るという、同語反復の試みを繰り返す。2021/08/11
mimosa
1
今回往復書簡で検索し、往復書簡なる1ジャンルさえあることに気づいた。二人の震災に思うこと、戦争末期の東京を消塵とした空襲の記憶、高度成長によるアスベストという負の遺産のことなど手紙という形でやりとりされたことで、対談とも違う時間の積み重なりの中で精神の交流がされていることが興味深かった2020/12/12