内容説明
江戸中期、日本橋瀬戸物町の鰹節商、伊勢屋にんべんの次男に生まれた伊之助。父亡き後、兄を支えて家業に精進するが、度重なる不運が伊勢屋を襲う。心身を病んでしまった兄の跡を継ぎ、三代目となった伊之助は「商人は何のために商売をするのか」という父の問いを胸に、大店の意地を捨てて苦難を乗り越え、商いの真髄を極めていく。江戸商人の心意気を描く傑作。第三回舟橋聖一文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
葉芹
7
玉岡かおるさんばりのを読みたいなと思って借りたらドンピシャ!鰹節の変遷や伊兵衛の人生を色彩豊かにいざなっていただきました。ねじめさんってこういう作家さんだったんですね。男は女によって変わるんだとも言えているし、真っ直ぐに道はない、ということ、よかった。2014/09/02
こぶた
5
★★★★ 良かった。江戸時代の日本橋の商人の在り方、長男、女性の立場、地位があり、その中を生き抜いていく主人公が感じられた。最後の大発明がなくても十分面白かったと思う。狂ってしまう兄が哀れであり、それを見ていた母の悲しみもあったろうにそこはなかったな。鰹の質が、薩摩、土佐、紀州、伊豆、千葉と回遊する中で変わっていくという話も新鮮で、面白かった。2021/12/25
コニタン
4
伊勢屋にんべん3代目の伊之助の努力の物語、奥さんのためが何気ない言葉から「削り節」を販売することになった。我が家の食卓にも「削り節」は欠かせない。2018/08/28
jj-jasmine
4
江戸時代の商人にスポットを当てた小説は少なく、実在の現在でも有名なお店が舞台なのが本当に面白かった。人間の欲や噂、それに動かされる流れが今よりずっと強く、簡単に転覆してしまう当時の商いの苦労が随所に描かれていて感慨深かった。2014/05/29
wasabi
3
江戸中期の「あきんど」を通して、当時の家族模様や隣保とのかかわり、流通事情、身分制度、風俗風習などを伝えてくれる。誠実でありながら、御用達の看板を掲げるにはそれなりの裏事情もある。そうした艱難辛苦を乗り越える上で、外からの血、すなわち嫁いできた女の支えの大きさも教える。妬みや裏切りはあってもそうした描写は薄く、三郎や油五たちの支援や友情が厚く描かれるのも好ましい。鰹風味のいいダシが効いた一冊。2014/03/26