内容説明
カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春――思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
123
白石一文の小説には必ずエリートが登場し、主張を始めるが、この小説の「カワバタ」の俗物は珍しいだろう。読んでいて嫌気がさすほどの一方的な社会論を述べるが、本人がおこなっているのはひどく俗物的である。ただ 現代、特に東京に生きている人たちの生態を的確に描いているのもまた真実なのだろう。 2012/02/29
chimako
90
何と小難しい小説であったことか。世界中の飢えた子供たちを語り、政治家と政治そのものを語り、世界経済を語り、宇宙飛行士のスピリチュアルを語り、それらの上に愛を語る。時間の持つ意味を、過去も未来も否定しながら今を語る。『この胸に深々と突き刺さる矢』は我々が囚われる時間と言う概念か。結局良くわからなかった。つまらない、とるに足らない日常が積み重なって今があると思っていた。遠くない未来に期待と希望をもって、そのつまらない、とるに足らない毎日を過ごすことが生きることだと思っていた。違いすぎて戸惑ったまま読了。2017/01/23
あすなろ
83
がん患者とそうでない者との間には、巨大なクレバスが横たわる。自分の人生への信頼そのものを失う。なすべきことをなせ。今この瞬間に自らが欲することをなせ。過去・未来にも縛られず、今を生きろ。という啓示を読み手の1人として得たつもり。それで良いのか? 更に、混沌の中、いつ我が身にそれが降りかかるか分からないのだから、ということか。更に言えば、がんでなくとも明日自分は死を迎えるかもしれぬのだから。そう感想を位置付けた作品であった。否、そうとしか僕には読み取れぬ。2020/05/31
かみぶくろ
51
考えることは誰もがしている。でも考え抜くことができる人は案外に稀である。少なくとも自分は考えたつもりになって適当なところで切り上げてしまう。単純に資質の問題もあるし愛とは何かとか世界の不条理を本気で考えても答えが出ないのは明白だ。でも白石一文はそこに突っ込んでいく。答えがないことに答えを出そうとしてもがき続けている。そしてこの人はあちら側から語らない。読んでる間、肩でも組まれてるような感覚がある。いつもの消費ではなく体験とでも呼べそうな読書だった。今後も悩み続けて熱を帯びてしまったような作品を期待したい。2014/11/24
ω
48
マジさいこー。ラストはどっちでもいいけど、クライマックスがマジでさいこーω もしかしたら半分も理解できてないかもしれんし、全てがすんなり入ってくることはないけど、白石先生はそれを問いかけている。先ずは考えること。そして、その矢を抜くこと。 私は是非、抜こう。2022/07/16