内容説明
極北の地に生まれ、サーカスの花形から作家に転身し、自伝を書きつづける「わたし」。その娘で、女曲芸師と歴史に残る「死の接吻」を演じた「トスカ」。そして、ベルリン動物園のスターとなった孫の「クヌート」。人と動物の境を自在に行き来しつつ語られる、美しくたくましいホッキョクグマ三代の物語。多和田葉子の最高傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
238
難解な小説か?といえば、けっしてそうではない。寓話か?といえば、これもまた違う。では、何故ホッキョクグマが主人公の3代記なのか?といえば、この問いに答えるのはきわめて難しい。熊が選ばれたのは、単にベルリンのシンボルだから、なのかもしれない。そして、ホッキョクグマというのは、我々の対極に位置する哺乳類であるからなのだろう…おそらくは。この物語が小説としての醍醐味に溢れているのは、熊と人間の、そして作家と読者の、意思疎通をあえて分断した中で作品世界を成立させている点だろう。小説はそれ自身の力で自立しうるのだ。2014/04/28
KAZOO
148
多和田さんのある意味大人向きの童話のようなのかもしれません。作品を読むたびにいつも驚かせてくれる作家さんです。ホッキョクグマの三代にわたる物語を収めています。読んでいるうちに何か不思議な感じを与えてくれます。読書の楽しみを与えてくれます。2017/03/30
naoっぴ
77
とてもユニークな作品!三代にわたるホッキョクグマと人間のふれあいの物語なんだけれど、登場する動物たちは擬人化され、社会的に行動し人語も話す。こんな現実からかけ離れた状況は、まるで幼い頃に読んだ寓話や絵本世界そのものだ。ところどころに社会風刺を混ぜ込みリアルを感じるところもあるけれど、はて?深い意味などあるのかないのか。ただたゆたうような文章と情景に心を預け、クマの可愛らしい白いもふもふを愛でるのだ。幸せで心地良い物語だった。2019/03/23
風眠
72
ホッキョクグマ、なのである。しかし、単純に擬人化した動物もの、というわけでもない。クマが語るクマの物語だ。第三章の、母親が育児放棄したために、動物園の飼育員に育てられたという設定は、実在するクヌートと同じだ。クマと人間という境界線が曖昧になっていくにつれ、言語、種族、ルーツ、そして書くことについて、ふと考えこんでしまった。本を閉じたあとも、表紙の真っ白い毛皮の残像が、ふたたびそんな疑問を運んでくる。細部にまで神経が行き届いた、死角のない、まさに「純文学」な作品と思う。とても幸せな読書だった。2012/03/13
kana
66
ホッキョクグマの三代記。こういうの大好物!読書の幸せを噛み締めながら大事に読んだ1冊でした。舞台は冷戦時代のドイツが中心。一代目は自伝を執筆し、二代目はサーカスでスターとなり、三代目は動物園のアイドルに。人間に飼われる白熊としての振る舞いと人間のような言動と、夢とうつつと。まるで短調の旋律でワルツを踊っているような淋しさと優雅さと可笑しさが共存した文学でしか表現し得ない世界に魅了されます。《時間は食べ物と違って、がつがつ食えばなくなるものではない。時間を前にするとクヌートは自分の無力さを思い知らされる。》2013/05/14
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