内容説明
女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭に昇り詰めていく。刀の抜き身のごとき鋭さを持つ利休は、秀吉の参謀としても、その力を如何なく発揮し、秀吉の天下取りを後押し。しかしその鋭さゆえに秀吉に疎まれ、理不尽な罪状を突きつけられて切腹を命ぜられる。利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出したものとは何だったのか。また、利休の「茶の道」を異界へと導いた、若き日の恋とは…。「侘び茶」を完成させ、「茶聖」と崇められている千利休。その伝説のベールを、思いがけない手法で剥がしていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。解説は作家の宮部みゆき氏。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
mapion
326
利休に関わった人々、秀吉、徳川家康、石田三成、織田信長などが中心となり、それぞれひとつの章ができる。そのひとつひとつが濃密で、利休の姿を見せながら、章の主役も描かれる形になっており、章ごとが短編として成立している。最初は利休が秀吉から切腹を命じられ、静かに死に向かう感じがなく、怒りを感じているところから始まり緊張する。そこから時を遡りながら利休が多面的に描かれ、美の求道者利休が見えてくるが、同時に利休を切腹に追いやった秀吉のいびつな形も見えて来る。章ごとに主役が変わることで変化があり、飽きることがない。 2025/09/17
遥かなる想い
309
秀吉に切腹を命じられた利休のその心のあり様を若きころの恋と緑釉の香合を肌身離さず持つという描写により艶っぽく描いている。本書は第140回直木賞受賞作だが、文体がうまい。2010/11/27
Atsushi
256
茶聖利休の若き日から切腹に至るまでが時を遡り複数の目で描かれる。木槿の花にあの人を思い出す。残された緑釉の香合とあの人の爪。叶わぬ恋が切ない。命よりも自らの美学を選んだ人生観は圧巻だった。感動の一冊。第140回直木賞受賞作。2017/09/09
射手座の天使あきちゃん
211
利休はなぜ切腹に至ったのか? 天正19年2月28日、千利休切腹の日から時を遡りながら、彼を取り巻く人達との関係の中から、原因を浮き彫りにしていきます。 人並み優れた人間力と審美眼を持った秀吉と利休、その才能に惹かれあい、やがて嫉妬と憎悪に・・・ 利休の貪欲なまでの美の追求のトラウマとなった事とは・・・ この作品は、人物描写(心理描写)が秀逸でしたね、満足の一冊です!。2010/11/15
ちびbookworm
210
★4-4.5.直木賞選考委員として宮部みゆきさんが推した本作◆謎多い茶人、利休の生涯を描いた力作。小説の「仕掛け」が面白い。意表をつく◆物語の1話目は、利休の最大の謎、切腹の場面から始まる。あれ?どうしてなのか?となる。切腹の理由。利休の追求した茶とは?美の美とは?◆ここから、時計の針が逆巻く。各話、主人公が変わる。真の利休、核心へむかう。マトリョーシカ人形のように、とれば、中から核心が次々と現れるような、そんな入れ子構造である◆また本書は、茶室にいるかのような、「侘び茶」の美と静寂を感じられる一冊だ。2022/02/26




