内容説明
イッポリート自殺未遂の翌朝、エパンチン将軍家の末娘アグラーヤとムィシキン公爵は、互いの好意を確認する。しかし、不可能な愛に悩むナスターシヤの呪縛から逃れられない公爵は、ロゴージンも交えた歪な三角関係に捕われ、物語は悲劇的様相を帯びていく。テンポ良く読みやすい新訳、完結。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
67
悲劇だのに、絶えずスチャラカと楽の音が鳴り響くが如き高揚感を持つ。予期していた結末だがやはり物悲しくなり、あんなに煩わしかった登場人物たちの肩を、死人も含めぽんぽんしてやりたくなる。読んだ直後にまた読み返したくなる。2019/05/12
mii22.
57
ムィシキン公爵、ナスターシャ、ロゴージンによる三角関係の愛憎劇は結末が予測出来るものであったが、やはり衝撃は避けられなかった。物語の最初の一日と三人の最後の一日を繋ぐ時間の経過は、まるでムィシキン公爵の夢の中の出来事のようですら感じる。あんなに激しい感情のぶつかり合いだった物語にもかかわらず、ラストは夢から覚めた時独りぼっちの自分に、物悲しく人恋しく、しんとした静けさに包まれるような感じだった。一読では読みきれない深みと厚みと味わいのある物語だった。2017/10/23
たかしくん。
48
3巻は、上から目線なお嬢さま、アグラーヤの告白から物語は動き出します。それにしても相変わらず、ナポレオンやら無神論者やら、横道にそれることが多いですね。そして、最後の約100ページで物語は急展開します。ストーリーはある程度予想できていたつもりでしたが、ナスターシャの結末が見えてきたとき、私自身が大変な緊張感に包まれました。さすがドストエフスキーの恋愛小説、迫力のある悲しい結末でした。わかりやすい望月新訳で読了できましたが、とにかくこの作品自体が難しかったです。再読は必須ですね。2016/11/12
翔亀
48
結局これは恋愛小説だったのか。2人ずつの男女の、といっても男女の恋愛は結婚を目的としながらその否定を志向し、しかも性愛を介さない同一化/信仰の趣。ムィシキンとロゴージンの最終場面は男同士の愛ともいえるし、女2人の関係は計略的だが愛を語る。標準的な男女の恋愛小説とは言えまい。結末のナスターシャの逃亡の動機もロゴージンの殺害の動機も明らかにされず解釈百出だろう。私はやはりムィシキン公爵という無垢な精神が惹き起こした悲劇と解す。私には理想に映るムィシキン的人物はこの社会において発狂するしかないという絶望の書か。2014/09/27
zirou1984
39
本編で黙示録から度々引用されるのが示唆する通り、逃れられなかった悲劇で幕を閉じる。ムィシキンがイエスの再来だとするならば、彼が再生する可能性もまた残されているという事か。またドストエフスキーの長編作品の魅力は本筋から外れた(ように見える)サブストーリーがどれも強烈な自己主張と輝きを放っている所だろう。一押しはイーヴォルギン将軍。『罪と罰』のマルメラードフ、『悪霊』のステパン先生を彷彿とさせる残念な酒飲み耄碌ジジイ枠(しかも全員死ぬ)なのだが、彼らの様な人間こそドストエフスキー作品の個性であり象徴なのだ。2013/05/16