内容説明
映画『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』の荻上直子監督、初の小説集! 母の足踏みミシンが大好きだったモリオの憧れは、花柄のスカートをはくこと。でもそんな自分を肯定できない(表題作)。末期癌の猫の面倒を見ているうちに、「僕」は自分に「猫と心を通わせる力」があることに気づく(「エウとシャチョウ」)。コンプレックスに苛まれる者たちが再生していく姿を、優しくユーモラスに描く、透明感に溢れた荻上ワールド。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nico🐬波待ち中
104
足踏みミシンを踏む母の傍らで幼いモリオが聴いていた心地よいリズムとほんのり漂う油の匂い。私の母もかつて足踏みミシンを使っていたので、私の中の記憶とシンクロする。亡き母から譲り受けたミシンで今度はモリオがスカートを縫う。「ひだり布地屋」のおばさんと黒猫の三郎さんが選んでくれた花柄の布で。モリオにとって足踏みミシンを踏んでいる時が唯一の、大好きだった母と向き合える穏やかで至福の時。人は安らぎの時間が持てれば心地好く生きていけるのかもしれない。ちょっぴり不思議で、心の奥をきゅっと掴まれる文章がたまらなく好き。2018/12/08
つくよみ
89
図書館本:母の形見のミシンで、自分のためのスカートを縫う男の話と、猫の「お相手」を生業にする男が、飼い猫の最期を看取る話を収めた、2編からなる小説集。主人公達は、少し変わってはいるけど、いたって平凡で、社会の片隅で遠慮がちに生きているような存在。特に大きな事件が起こるわけでもなく、土壇場で何か奇跡が起こるわけでも無いお話たち。そんな中で、2編をゆるく繋ぐ「ひだり布地屋」の女主人と飼い猫の存在が、得も言われぬ味わいをこの作品に与えている。等身大だけど、何となく不思議な雰囲気と、居心地の良さを纏った作品。2014/02/27
ぶんこ
59
気が弱くて不器用で、生きづらい毎日の中で、ひっそりと好きな事に没頭するモリオ。小さい頃からフリフリがたくさん付いた花柄のスカートが好きだったモリオ。母亡き後自らスカートを作り、毎日に喜びを見出す。お気に入りの花柄の布地を求めて出会った黒猫の三郎さんと「ひだり布地屋」のおばあさんが、次の作品で猫のお相手として選んだ青年エウ。モリオと同じような不器用で生きづらい青年ですが、猫の気持ちを理解できるのが素晴らしい。2人とも見た目冴えない青年ですが、穏やかで優しくて一緒に生活するのにはいいかもしれません。2020/03/12
chimako
55
『モリオ』も『エウとシャチョウ』もしみじみと良い話だった。人と交わるのが不得手な若者を主人公とした2話だが、猫の話でもある。堂々とそして凛とした三郎さんもだんだん痩せてしまいながらも威厳をなくさないシャチョウも人柄ならぬ猫柄?が素晴らしい。三郎さんはいぶし銀の名脇役 篠田三郎(あっ、同じ名前!)、シャチョウはわがままだけども憎めない西田敏行。猫、いいなぁ。モリオもエウも陽子さんも左右対称の美しい少女もみんな幸せになってほしい。モリオのミシンが何時までもダダダダと動きますように。表紙が好みではないのが残念。2015/01/29
いたろう
47
荻上直子監督の映画のひょうひょうとした独特のテンポが好きだ。表題作「モリオ」は、映画「トイレット」の原案。と言っても、設定もストーリーも全くと言っていいほど異なる。共通するのはモリオ(映画ではモリー)という若者が自作のスカートをはくことぐらい。小説では映画ほどの個性は感じられないが、それでもこれはこれで味わい深く、やはりひょうひょうとした荻上ワールド。2014/06/18