内容説明
ささやかな日常から真理を見いだす作家の目
『博士の愛した数式』『ミーナの行進』などで知られる小川洋子さんのエッセイ集。
インドとドイツの区別がつかなかった子供の頃。「君、明治生まれ?」とボーイフレンドに揶揄された学生時代。
身近なエピソードからはじまり、単行本にしてたった5ページ弱で人生の真理にまでたどり着く展開は、作家ならではの発想の豊かさゆえ。
そんなエッセイの醍醐味を堪能させてくれる29の掌編が詰まった、宝石箱のような一冊です。
収録作品の多くは、ファッション誌「Domani」に連載されたもの。
小説を書くとき、登場人物の職業を最も重要視するという著者が働く女性に向けるまなざしは、温かな励ましに満ちています。
日々忙しく働く中で、つい“ドラマ”を求めてしまい、平凡な日常を退屈なものと思いがちですが、繰り返されるその日常こそがかけがえのない幸せなのだと気づかされます。
仕事、プライベートで、ついがんばってしまう女性たち。
そんな彼女たちに「今日は元気を出さなくてもいいかなと感じたときに読んでもらえたら」と小川洋子さん。
ふとたちどまり、肩の力を抜いて、自分自身を見直す--そんなきっかけをくれるエッセイ集です。
目次
世界一孤独な人
幸福なお化粧
思い出からやって来る人
働く人の姿
大人の女性とは
本物のご褒美
黙々と労働する人
言葉の天使、通訳という仕事
人と人が出会う手順
神様の計らい〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
90
2006年から2008年にかけて女性誌に連載されたエッセイの本。最近エッセイを読むことが多くなった。歳を重ねると長い小説やノンフィクションを読んでいてもどうも集中で霧時間が短くなっているようだ。その点エッセイというのは短くて、時々とても刺さる話や笑える話、人に話したくなるような話が多い。1960年生まれの著者。 年齢が私とほとんど変わらないから、頷ける話も多かった。図書館本2025/06/01
ひめありす@灯れ松明の火
80
『一日一冊の会』でちょっと噂になっておりまして、末席に連なる物としてはこれは読まなくてはなるまい、ということで読みました。小川洋子さんはこの間『最果てアーケード』を読んだだけなのですが……。粗末なスプレーを吹き付けられて、長生きできないことがわかっているカラーひよこ。年老いた犬の耳の中にあるコーヒー豆。生と死と、儚い物と生き延びた物と。他の誰かにはがらくたなのだろう。夜が明けた後に見る夏祭りの夜店は妙にしらけていて。ひよこは斑に染まって弱って。でも、その色は何より鮮やかに心に残って、今の私を形作っている。2012/12/24
吉田あや
75
毎日の中でスルリと零れてしまいそうなひとコマを丁寧に書かれたエッセイ。不平不満をこぼさず謙虚な笑顔と誠実な人柄のお料理の先生のお話。大好きな須賀敦子さん、堀江敏幸さん、柴田元幸さんの話もうれしく「枕草子」に対する想いにそうそう!とうれしくなったり。人を結びつける本の話も素敵だった。同じ本を読んでいるだけで話が弾んだり言葉にできない深い繋がりを感じたり。読メでの出会いも然り。たかが1冊、されど。人の縁、結びつき、大切にすること、丁寧に続けていくこと、楽しむこと。たくさんの優しさに心が柔らかくなる読後でした。2014/06/09
ゆきち
69
エッセイは、小説よりも作者の内面を知れて面白いのだけど、小説は好きなのにエッセイだと受け付けない方も結構多いのです。でも小川洋子さんのこのエッセイはすごく好きです。大仰なことは語らずに、ふと思ったことを書いているような…でも、あっ!そっか!確かにそういう考え方もステキ!と思えたり…他の作者さんの気になる発言や本をさりげなく教えてくれたりと、とても楽しく読むことができました。小川洋子さんの作品を読みたくなったことはもちろんのこと、清少納言の枕草子や、アンネの日記を読みたくなったりしました。ステキな方ですね。2018/07/20
nyanco
53
もっと独特な雰囲気のエッセイを描かれると思ったら、あれれ?お洒落な『Domani』の連載だったんだ、納得。月に一度、こんな素敵なメッセージを大人の女性である小川さんから贈られたら素敵。とてもふんわりとした気持ちになれるエッセイ集。でも、これぞ小川さんでしょ、と感じたのは冒頭の『世界一孤独な人』と『ジュウシマツの芸術』これからタクシー無線とジュウシマツの鳴き声は、私の中で今までとは違ったものになることは確実。こうやって、世界を広げてもらうのは読書の楽しみのひとつ。2009/12/19
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