内容説明
静かなユーモア・優しいペーソス、淡々と沁みる小説集。「父母の、友の、猫の、己の死を深く見つめる作者の眼差しが、今ここにあるかけがえのない生に向けられる時、すべての事物が記憶を語りはじめる――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶんこ
32
2編とも死が主題のようですが、暗い印象はなく、淡々としています。 私には読み辛かったです。 両親とも亡くなった実家の片付けには、迫り来る現実が思い出され、少し心が痛みました。2014/10/02
やどかり
19
タイトルからして、ほのぼのとした小説かと思いきや、どちらも老齢期に入ろうとする男の物語で、死についての考察といった感じ。親や友人に猫、そして自分に間近に迫ってきた死をどのように受け止めるのか、ある意味哲学的。家族や友人、猫たちとの間に張り巡らされた関係によって自分は生かされているという言葉が印象的だった。自分1人で生きているわけではない、周囲との関係の中で自分は生きているのだ。2013/05/03
猫丸
14
帯には「小説家・川崎徹の充実一途を示してやまない…」との豊崎由美氏の推薦文。時代の流速に同期し、浅さを競って休む間もない広告業界に従事した中年期まで。老境に至ると精神のスピードが時代に追いつかなくなり、自分自身に潜る方向へと促される。浮草稼業として期待されるパフォーマンスは困難となるが、ここまで研磨してきたコトバの感性は、遍在する死を描くのにちょうど適合し始める。ここに尾辻克彦とよく似た書き手が生まれた。川崎徹が一級の私小説家へ飛躍したのは必然に思える。「傘と長靴」「猫の水につかるカエル」の二編。2020/07/29
navy
9
静かに進む。猫とのあれこれの背景にある哀愁やら病気への不安やら、悲しげだけど不幸ではないエピソードにほんのり胸を痛める。母親の思い出がたまらない。うまく表現出来ないがなかなかよかった。2012/12/08
timeturner
7
猫、死んだ両親、自身の老いと死。ほのかなユーモアでくるまれてはいるけれど、作者と同じ年代の人間にとってはひどく身につまされる。ホームレスの人が欲しがるのは抗生物質、という話にはなるほどと納得した。2018/08/14