内容説明
神戸で「酒鬼薔薇」事件が起こったのが1997年。その28年前、そっくりな事件が東京近郊であった。同級生を殺し、その首を切断した加害者は、当時15歳の少年。息子の死から40年近く経ったいまも、被害者家族は事件を重く引きずっている。歳月は、遺族を癒さないのだ。一方、犯人の父は、約束の賠償金をほとんど払わぬまま死亡。犯人は“立派に更生”し、なんと弁護士として成功をおさめていた。被害者家族に光を当て、司法を大きく動かした、執念のルポルタージュ。
目次
白昼夢
二十八年前の「酒鬼薔薇」
消えた記憶
闇に凍える家
母が壊れる
死の世界へ
救世主
暗夜航路
父の涙
リストカット
父が逝った
少年Aの行方
父の死後
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風眠
136
昭和44年に起こった同級生首切り殺人事件。後の酒鬼薔薇事件のときにもマスコミでも取り上げられ、加害者の少年Aが今では弁護士となり、地元の名士として暮らしていることも伝えられた。この少年Aの生育歴などを読んでいくと、いわゆる「良心を持たない人」と呼ばれる人間に育ってしまうのも分かるな、という気持ちにもなるが、被害者家族が何十年も心にナイフをしのばせ地獄を生きたことを想うと、裁きとは何かを考えさせられる。手厚く保護され過去を知られること無く、弁護士になり結婚までできたということに、少年法の不条理さを感じる。2014/01/08
ユザキ部長
120
心に受けたダメージは時が解決してくれるというけど、ダメージがデカすぎると残された家族の時は止まってしまう。死を受容する事なんて出来ずに何時までも引きずる。わからないのが少年A。杳として消えた。なぜ自分だけこんな目に。と。痛いほど伝わる。2018/02/01
Kazuko Ohta
117
中山七里の『贖罪の奏鳴曲』読了後に本書の存在を知りました。少年時代に猟奇殺人を犯して弁護士になった人が実在するとは。被害者の母親が記憶障害を起こしたり、名前の似た登場人物が居たり、この事件をモチーフにしていることが明白ゆえ、御子柴弁護士シリーズを娯楽作として楽しむことを申し訳なく思ったりも。第11章の「少年Aの行方」と文庫版あとがきを読むと頭に血がのぼる。御子柴があんなふうであるのは、償いの意識が皆無だった実在の元弁護士への戒めが込められているのかもしれないと思えます。更生するのはフィクションの中だけか。2019/05/31
gtn
102
睡眠薬を服用して夢現を漂い、法事には別人が憑依したように、あらぬ言葉を放つ母。無残に殺された息子の腕時計を終始はめ、パチンコに没頭する父。犠牲者の妹がかろうじて平静を保てなかったら、この書は生まれなかった。その妹も、加害者が弁護士として平然と社会生活を送っていることを知り、半狂乱になる。現在の少年法は、少年犯罪者と犯罪被害者のアンバランスが著しい。加害者にとって犯罪は青春の一頁かも知れないが、被害者家族にとっては一生、被害者にとっては永遠である。2019/09/24
Bugsy Malone
89
1969年川崎で起きたサレジオ高校生首斬り殺人事件の被害者遺族に取材を行い、その苦悩と癒えない想いを被害者側の言葉として著したルポタージュ。事件後の家庭を壊さない為、加害者を恨む余裕さえ無くした被害者遺族、そんな遺族よりも加害者保護が優先される不条理に憤りを感じ貪るように読んだ。その不条理を問いかけるという意味では素晴らしいルポだと思う。しかし本書では加害者の心理に付いては殆ど触れられていない。その理由を著者は文庫版あとがきの中で述べているが、一部納得しかねる言葉もあった。→ 2017/10/19