内容説明
「[たいめいけん]の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。物質のゆたかさではない。そのころの東京に住んでいた人びとの、心のゆたかさのことである」人生の折々に出会った“懐かしい味”を今も残している店を改めて全国に訪ね、初めて食べた時の強烈な思い出を語る。そして、変貌いちじるしい現代に昔の味を伝え続けている店の人たちの細かな心づかいをたたえる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
526
「食エッセイ元祖」と崇める池波先生。これもまたわたしの好きな、先生の昭和初期の食の想い出を綴ったエッセイ。先生の食への執着、ひとつひとつの描写が愛おしい。先生とわたし、実は人生の出発点が都内の株屋というところが共通点なのだ。当時はバブルが絶頂で、わたしも先生の通ったお店にお邪魔したこともあったなぁと。わたし自身の「むかしの味」をたどりつつ。健康診断のための断食しながらこういうのを読むとは、わたしのM気質にも磨きがかかった。2020/01/29
mura_ユル活動
117
美味しいけれど、それでも安いものに価値があるとする、池波正太郎さんか贔屓にしている店とメニュー。昭和50年頃の内容とあって、今は無き味が多そうだ。あっても名が売れて行列が出来たり、値段は変わっているのだろう。調べると、神田「万惣」のホットケーキなどは別の店が味を引き継いでいたりする。巻頭に閉じこんでいる料理の写真は残念ながら、美味しそうに見えない。写真の撮り方が今と違うのだろう。老人達が何事につけ「むかしとは、くらべものにならない」と言っていたものを、本人が、その当時、実践していらっしゃる。そんな本です。2018/07/08
ゴンゾウ@新潮部
110
池波さんが生きた昭和の時代の活力を感じさせる食の物語。著者が愛した食べ物にはそれぞれに思い出がある。エピソードのひとつひとつに著者の暖かさや食に対する感謝の念が感じられる。私ももっと一食一食を大切にしたいと思った。2014/10/26
masa@レビューお休み中
106
もっと前に出会えば良かったのか。それとも、この年になったからこそ出会えて良かったのか。かくも色めき立つ料理の数々は、どれも垂涎ものの一品ばかり。今まで食指の動かなかった料理さえも、池波先生の手にかかればすぐにでも食べたくなる一品に早変わりする。煉瓦亭のハヤシライス、資生堂パーラーのミートコロッケ、蛸長のおでん、万惣のホットケーキなどなど。どれもこれも美味しそうで、食べてみたくて、そのお店の雰囲気や接客を味わってみたくなるんです。やはり、名店と呼ばれているところは、ただ美味しいだけではないんですね。2018/01/11
アキ
91
昭和56年から2年間小説新潮に連載したもの。いずれも料理のカラー写真と共に店名が紹介されている。「むかしの味」とあるように、思い出のある一品は、懐かしい友や昔気質の店の人の佇まいと共にある。戦前の銀座・資生堂で食べたクリーム・ソーダやミート・コロッケと、戦後会えなくなった同級生の少年給仕、山田君の思い出。両親が離婚してから父親が食べさせてくれた「万惣」のホット・ケーキ。子どもの頃に食べた「どんどん焼き」。店と料理だけでなく登場する人物の描写がうまい。よき時代の料理には、人の心のゆたかさが温存されている。2021/10/27




