内容説明
江戸で行き詰った冲也は、浄瑠璃の本場、大阪で一本立ちしようと決意し江戸をあとにするが、上方でも無惨な失敗に終り、次第に深酒にひたるようになる。冲也はさらに北陸の金沢へと遍歴を続けるのだが……。おのれの人生を芸道との孤独な苦闘に賭けて悔いることのなかった男を通し、「人間の真価はなにを為したかではなく、何を為そうとしたかだ」という著者の人間観を呈示した長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
228
とうとう読み終わってしまった。我が身をすっかりおけいに感情移入させて。男子一生の本懐を遂げさせるため、文字どおり身も心も粉にして彼に尽くすおけい。江戸で待つ本妻(これがまた、ビミョーな立ち位置で)のために陰膳を据える彼女に涙させられる。彼の人生が終わったそのとき自分の人生も終わった、と言い切れる女性が現代にどれほどいるだろうか。欲をいえば、ふたりの間に恋愛感情があれば…とは思うが。作品を教えてくださった 読み友さんと、本を送ってくれた友人に感謝しつつ。2016/08/14
じいじ
98
『おさん』から読みはじめて『さぶ』と『柳橋物語・むかしも今も』で山周小説のトリコになった。この13作目の『虚空遍歴』の長編は、これまでの作品にはない想像を超越した重量感がありました。大衆に受け入れられ、そして愛された端唄を捨て、さらなる上の芸術(浄瑠璃の世界)を目指す主人公・冲也。著者は、その冲也に自分自身を被せて真の芸術家への生き様、人間の価値観を描こうとしたのだろう。山本周五郎が心血を注いで書き上げた物語、とても奥が深い。一度の通読では、とても著者の意を汲みとることはできない小説である。2019/06/26
キムチ27
43
冲也の芸への精進が続く・・合間に彼の喘ぎやぬか喜び、感情のうねりを見せるのが非常に人間らしく、気持ちが寄り添っていく。後日、周五郎の身辺随筆でこの作品に、自らを投影していたのを知り、深く納得させられる。不安・焦燥・苛立ち・落胆・憤怒・・ネガティヴな感情の大小の波に翻弄される人生航路でもう一度、読まねばなるまいと思っている・・80歳くらいで読めれば・・と。冲也の端唄を実像として描けぬまま 読み終えたのが気恥ずかしい。息を引き取る冲也が「死を人生の完成だ」と呟いた下りは涙が出た。2003/07/18
シュラフ
34
至高の浄瑠璃という高みを目指して苦労する冲也。努力は必ず報われるという素晴らしき大団円を期待していたが、冲也はおかしくなっていく。そして最後の残酷すぎる結末に困惑した。ひたすらに坂の上の雲を目指したはずなのに、その雲は蜃気楼のようにどんどん遠ざかっていくようである。冲也はなにを間違えてしまったのか。冲也がおけいを抱かなかったことこそ問題があったと私には思える。浄瑠璃作品に人情を込めるための長い旅に最後まで付き合ったおけいを抱かないという不人情。冲也はじめ登場人物のそれぞれが人間の生きざまを問いかけてくる。2018/09/12
ken_sakura
26
とても良かった。そして重かった(−_−;)この終わりは早くから想像していたのに、全く意外な終わりのようにズッシリときた。端唄の名手である主人公が浄瑠璃を志し、心から完成を願う女が寄り添う物語。容赦無し(;_;)恋愛小説という触れ込みで薦めてくれたおもしろ本棚の先生に感謝(⌒-⌒; )2016/03/29