内容説明
西洋史の泰斗ジャック・ルゴフが「先駆的民俗学者」と呼んだティルベリのゲルウァシウスによる奇譚集。南フランス、イタリアを中心にイングランドやアラゴンなどの不思議話を129篇収録。幽霊、狼男、人魚、煉獄、妖精、魔術師……。奇蹟と魔術の間に立つ《驚異》は「人間と世界の在り方の反省へと、謙虚に誘う」神聖な現象だった。中世人の精神を知るために必読の第1級史料。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
63
神聖ローマ皇帝オットー4世に献呈された奇譚集。欧州はもちろん、インドやエジプトまで様々な地域の不思議や驚異が語られます。手袋に海風を詰め風の吹かない土地に風をもたらす大司教、家中の仕事を器用にこなしたり人をからかったりするイングランドの精霊や新月の晩に変身する狼男、仇敵と再婚した妻を殺しに来る死んだ騎士の話など心惹かれるお話ばかり。水辺で人を拐う精霊など民間伝承を記録したようなもののほか、エチオピアにあるという至純の金と象牙で作られた太陽の臥所など想像力を掻き立てられる遠い異国の驚異譚が大変好きでした。2025/02/26
HANA
63
これは世界が不思議に満ち、もっと身近にあった時代のお話。近くは欧州遠くは印度まで、驚異に満ちた話が収録されている。例えば聖者が風を手袋に閉じ込める話やイングランド海の人魚、指一本で動かせるが全身の力を込めると動かない岩等、収録された数々の話を読んでいると、『博物誌』や『山海経』を読んでいるような、もしくは小さなヴンダーカンマーを所有している気分になれる。いつの時代のものであれ、こういう時代の想像力を表したようなものに触れるのは本当に楽しいなあ。中世欧州の想像力が詰まった一冊、本当に面白かったです。2021/06/07
evifrei
15
人魚や殺戮天使・幽霊などの日常の向こう側にある怪異や聖教徒の談話を通じて、中世西洋における『驚異』が語られる。篤信的で素朴な中世の感受性が様々な物語を通じて立ち現れると同時に、日常に潜む『不思議』に触れる事こそが新たな生の発見であり最大の娯楽であるという『驚異』と共に生きる中世人の精神性が伝わってくる。また、目の前で資料の編纂者が語り掛けてくる様で熱心に聞き入る様に読めた。皇帝に捧げるという体裁の作品集だが、権力者達も物語に熱中したのだろうなという思いを馳せる。中世史料としても価値が高いといえるだろう。2020/05/28
たみ
14
13世紀に発行された驚異譚の日本語訳。著者が聞いたり読んだりして集めた話で、数ページの話もあれば2~3行で終わるような短い話も載っています。全129章、脚注解説つき。文章は皇帝に語りかける体裁。宗教色の強い話もありますが基本的には〇という地方で△という人が□な不思議な目にあったマル、という感じのストイックなもの。そんな不思議な話を3行で終わらせるってどういうことじゃ~っ!っと叫びたい。ところで[こうていのかんか]ってすごいタイトルですね、音だけ聞くと皇帝が勘を働かせて不思議現象を解明…あ、すいません。2015/06/26
sabosashi
11
15、16世紀をその頂点としつつ、ヨーロッパ世界から飛び出していった人々は、クロニクルのようなものを数多く残していった。 じつはその以前からヨーロッパ人は小規模ながら非ヨーロッパ世界へと足を伸ばしている、海路であろうと陸路であろうと。 なるべく実証を試みようと志しても、ときには荒唐無稽な話も紛れ込んでくる。 たとえばコロンブスはカリブ海で人魚を目にしたが、世間で語られているほど美しいものではない、とか述べているが、これはもちろんマナティのことである。 2018/08/25