内容説明
「日本精神分析」というエッセイは、日本の文化に関する考察である。私はいつも、日本人の経験を、自民族中心主義に陥ることなく、普遍的に意味をもつようなかたちで提示したいと思っていた。しかし、ある意味で、本書のエッセイはすべて、そのような姿勢で書かれている、といえる。ゆえに、本のタイトルを「日本精神分析」としたのである。――〈「学術文庫版へのあとがき」より〉 (講談社学術文庫)
目次
第一章 言語と国家
第二章 日本精神分析──芥川龍之介「神神の微笑」
第三章 入れ札と籤引き──菊池寛「入れ札」
第四章 市民通貨の小さな王国──谷崎潤一郎「小さな王国」
あとがき
学術文庫版へのあとがき
初出一覧
付 録
神神の微笑
入れ札
小さな王国
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
きさき
10
★★★☆☆:今読むとやっぱり古いなって感じるけど、エッセイとしては面白い書き方。もっと勉強しなきゃいけない分野だな。2020/03/14
NагΑ Насy
6
ラカン『エクリ』日本国版の序文の引用を探して読む。何度も読んだ本で、論をおいながら流れるように読む。何かを探しながら読む読み方がこんなに速く読むことができるのかと思ってかなり自分で驚いている。芥川の短編についての論考のところで目当てのラカンの文章は見つかった。2013/12/17
カラス
4
講演とエッセイで構成された一般読者向けのわかりやすい本。基本的には文芸評論だが、半面社会評論でもある。どれも面白かったが、印象に残ったのはふたつ。ひとつは「神神の微笑」を論じた「日本精神分析」だ。日本特有の「主体性の無さ」と「柔軟さ」を考察した変化球気味の日本論。もうひとつは、秘密投票と民主主義を扱った「入れ札と籤引き」。籤引きを導入することによって世の中もう少しよくなるじゃない?という発想、まさにその発想はなかった。人間の個体差なんて大したことないしドングリの背比べなんだから、それでええと思うんよ。2020/01/10
amanon
2
講演を元にしたというだけあって、比較的読みやすいが、内容は濃い。特に印象的だったのは「入れ札と籤引き」。議会民主制が抱える矛盾と限界についての考察は、まさにポピュリズムが席巻する昨今だからこそ改めて読まれるべきではないか?という気がした。また、選挙や大学入試に籤引きを取り入れるという提案は、一見荒唐無稽だけれど、それなりの妥当性はある。その可能性はある程度追求すべきではないか?後、「言語と国家」ですでに後の『世界史の構造』の発想が見られるのが興味深い。それから、巻末の付録が思いの外楽しめた。2014/11/26
Masaki Nakamura
2
表題の文の他、文芸評論が複数収められている。日本精神分析それ自体も芥川の批評から丸山真男の「無責任の体系」の批判・発展まで包摂するものである。天皇制を「無責任の体系」の表出だとした丸山に対し、柄谷は「天皇制をそんなに根深いものだとは考えていない」とし、日本の辺境性と、中国圏という世界帝国との隣接性において、外来文化を異物としてではなく、無制限に受容して最初から自らのものであったかのように振る舞う中で、朝鮮半島の防壁による被侵略経験の欠如により偶然残った物だと考えた。谷崎批評からは柄谷の左翼的思想が伺える。2013/02/19




