内容説明
近藤勇と土方歳三らによる「芹沢鴨一派暗殺計画」は着々と進んでいた。芹沢暗殺は、いわば百姓が真の武士を殺すという凶事。音羽太夫を殺されて芹沢を恨んでいる糸里と土方の心の絆が強まる中で、計画を聞いた糸里は、ある決意をかためる。決行の日──予想外の展開が待ち構えていた! 黎明期の新選組の不器用な生きざまと、彼らに翻弄されながらも自らの道を誇り高く生きようとする女たち。運命の糸に操られた男と女の哀しみが滲み出る、浅田次郎ならではの感動傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
237
ほぼ一気に読んでしまった。感じるのは女性の強さと涙、そして矜恃。土方の描いた芹沢暗殺の計画。それは糸里と吉栄には酷過ぎるものだった。また、七年を菱屋の為に尽くしたお梅への太兵衛の裏切り。なかなか女性に忍従を強いた物語だったと思う。その辛さがあるからこそ、お梅の前川や儀助への啖呵、土方への糸里の啖呵、会津中将への糸里の言上が耀くと思う。最期にゆきが女の子を生み名をつけ、自分の手で育てる覚悟を語り、島原の最期の夜を思い出す場面で泣けて仕方がなかった。「燃えよ剣」とは異なる新選組像。女性の強さが熱い感動を生む。2017/11/05
ehirano1
196
まさに当時の女性の側から見た新選組でした。糸ちゃんよりも、お梅の壮絶さや吉ちゃんの苦悩が強く印象に残り、糸ちゃんは最後まで矜(ほこり)を貫き通した姿に貫録を感じました。ラストで近藤さんがバツが悪そうに吉ちゃんを峠まで送るシーンとお別れのシーンはじぃ~~んと来ました。2021/11/18
mariya926
160
上巻は読むのに時間がかかりましたが、下巻は一気読みでした。それほど続きが気になりました。新選組を女子の目線で見た物語ですが、カッコイイと思っていた沖田や近藤友のイメージが変わりました。何よりも土方…。実話かは分かりませんが、かなりガッカリ。特に江戸時代は読むのは面白いですが、絶対に生きたくない時代だったので…男は男なりの生き方があって、女子は手も足も出せないかと思っていましたが、今回は女の勝利でした。「恨みは水に流し、恩は岩に刻んで生きな、人間は人間らしく生きられへんいうことも、よう知ってます」2021/01/03
いこ
108
史実はやはり重い。それを余すことなく書いた本書のような作品に触れてしまうと、ただ楽しいだけの小説なんて読みたくなくなる。それは言い過ぎ。しかし、この作品は、その位素晴らしかった。新撰組には詳しくないけれど「芹沢暗殺」をここまで詳細に、隊士たちの「その時」の気持ちまで細やかに書いた作品はあるのだろうか?隊士たちの気持ちが切ない。また、巻き込まれた女たちの想いが切ない。そして、最後までわからなかったこと。屯所の前川邸に「ろうず」の苗を植えるような芹沢鴨は、本当の悪人だったのだろうか?著者は我々に問うている。2023/06/22
文庫フリーク@灯れ松明の火
108
濃い。芹沢鴨暗殺を描きながら土方・長倉・沖田の独白と共に、莫連お梅・芸妓糸里・吉栄の独白。男の情も女の情も毒性の如く濃厚。これが各人物メインの連作短編で、最後に結びつく形ならば泣ける余地もあるのだが、これは浅田さんの作意『俗を饗す芸が俗であってはならぬ』だろうか。原田左之介の『どうやら女というのは、剣を持たずに斬り合いができるらしい』がこの作品の芯かもしれない。会津藩主・松平容保公に示した糸里の『君がため 惜しからざらむ身なれども 咲くが誉れや 五位の桜木』の一首は土方歳三との別離の決意。→続く2011/03/06