- ホーム
- > 電子書籍
- > 教養文庫・新書・選書
内容説明
16歳の少年ウラジーミルは、隣に引っ越してきた年上の公爵令嬢ジナイーダに、一目で魅せられる。初めての恋にとまどいながらも、思いは燃え上がる。取り巻きの青年たちと恋のさや当てが始まるなか、ある日彼女が恋に落ちたことを知る。だが、相手はいったい誰なのか? 初恋の甘く切ないときめきが、主人公の回想で綴られる。作者自身がもっとも愛した自伝的中編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
月讀命
107
滅多に小説を読まない私が久々に読んでみたロシアの小説。新訳の新しさ、活字の大きさとこの薄さで手に取ってみた。序盤は、小悪魔的な女性ジナイダーに弄ばれる男たちに苛立ちを感じながら、インモラルな印象に腹立ちさえ感じた。主人公ウラジーミルにとっては、彼女の恋の相手が父親であり、愛する人が父を愛し、父は女を鞭で打つという16歳の青年にとっては結構ショッキングな結末でもある。主人公の心理描写が繊細で、感情の動きがよく伝わってくる素晴らしい作品。初恋は実らないからこそ良いと言うが、特に主人公には同情してしまいますね。2012/12/18
藤月はな(灯れ松明の火)
93
40代にして年老いてしまったウラジミール。彼の心が苦渋で老いてしまったきっかけは初恋だった。愛した女は自分が尊敬する父を愛した。もしかしたら藤壺と光源氏のような関係になっていたかもしれない若き二人。しかし、ジナイーダはどう見ても誰の者にもならないが好意は振りまく無自覚な悪女タイプにしか見えないのは何故だ・・・。寧ろ、ジナイーダとの恋が叶わず、辛酸を舐めるような結婚生活を続けた父上の方が辛い。甘く、そして苦い初恋として終わったからこそ、ウラジミール達はジナイーダを神聖視することができたんじゃないかと思う。2017/03/21
nobi
86
例えば「怒りの葡萄」の最後「優しさ(イーユン・リー)」の敬礼の場面には喜怒哀楽の表現はなくてあるのは情景の描写だけ。それでも心を揺り動かす。恋のときめき、衝動、焦燥、落胆…も表情、仕草、風景等の描写主体の方が受け入れやすい。「胸が締めつけられ」「あまりに嬉しくなった」といった感情の直の表現は、文脈によっては力があっても多用されるとありきたりになってしまう。魅せられた女性が恋に落ちた相手が実は、という設定にあまり意外性を感じないのはそこに原因あるかも。でも追想の物悲しさの内にジナイーダはオーラを放っている。2017/03/11
ナマアタタカイカタタタキキ
75
子供と大人の境界にいた少年が生まれて初めて抱いた激情の、発芽から開花、そして枯れるまで。その花を看取った時、彼は大人になった。恋によって盲目的である様子が、主人公の心情に合わせて情景までもが揺れ動く様を描くことで表現されている。恋を全うするにあたって、無傷でいられることは有り得ないが、愛する者の手でつけられた傷は、時折それを愛おしい気持ちでそっと撫で、“きちんと”痛みを感じるのかどうか確かめたくなるものだ。取り分け初恋は、より甘美で、より深い傷を与え、癒えた後も決して消えることのない、痛々しい傷跡を残す。2020/04/15
マエダ
73
最初おじさん3人が初恋について語り合うとするくだりは気持ち悪いが。本書は年をとればとるほど面白いのではないかと思う。”青春の魅力とはなんでもできるというところにではなく、なんでもできると思えるというところにあるのかもしれません。”おじさんは青春が大好きである。2018/10/19