内容説明
人買いのために引離された母と姉弟の受難を通して、犠牲の意味を問う『山椒大夫』、弟殺しの罪で島流しにされてゆく男とそれを護送する同心との会話から安楽死の問題をみつめた『高瀬舟』。滞欧生活で学んだことを振返りつつ、思想的な立場を静かに語って鴎外の世界観、人生観をうかがうのに不可欠な『妄想』、ほかに『興津弥五右衛門の遺書』『最後の一句』など全12編を収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
548
(感想は「高瀬舟」のみ)短い作品だが実によく彫琢されている。その抑制された文体はまさに鷗外のもの。登場人物は同心の庄兵衛と罪人の喜助のみ。この短い1篇の中に彼ら2人の半生が語られる。寛政期にあって、オオトリテの末端に位置する庄兵衛と全てを失いつつわずか200文で充足を語る喜助。「知足」を語ったかに見える本編だが、ことはさほどに単純ではない。何故なら、事件は喜助が語るだけであり、真相はとうとう語られることがないからである。喜助の語る通りであったかも知れず、また巧みに語られた弟殺しであった可能性も捨てられ⇒2019/09/17
ehirano1
218
標題作の「山椒太夫」について。「さんせい太夫」のリメイクと言われているらしい本作。オリジナルの方はエグイ復讐劇であるように思いますが、本作は打って変わって復讐はなし・・・。これではリメイクというかもはやオマージュのように感じますが、そのように至った著者の心情は如何に。2024/05/26
zero1
206
覚悟さえあれば殺人も解決方法になるのか?死を許しとして認めるべきか。ALS(筋萎縮性側索硬化症)での安楽死事件で思い出す作品の一つ。弟を殺した罪人の顔は、どこかスッキリしていた。やがてその男は事情を話し始める。文章は格調高く無駄がない。山本周五郎につながる?文豪と同時に医師でもあった鴎外だからこそこの作品には重さと説得力がある。中学の国語教科書にも採用されているが、今の中学生は命と安楽死について、どう考えるのだろう。また100年後の日本人はこの作品をどう解釈するのか。山椒大夫については別の機会に述べたい。2020/08/21
Major
165
運命への追随」と「犠牲の意味」を問う名作である。これほど波乱万丈の境遇におかれた安寿と厨子王に、作家はあえて「怨念」や「復讐心」を付与しない。微笑の人、鴎外自身の境地にも重なるのであろう。ある程度史実にそって、夢の話、騙りの話、海幸彦・山幸彦の神話、これらのプロットやモチーフをモンタージュのようにして拵えた作品ではないだろうか。鴎外得意の歴史小説だけあって、この物語の中で場面場面が、実際にあったことのように巧みに描かれている。それにしても、タイトルが「厨子王」ではなくて、「山椒大夫」なのはなぜだろう。2017/08/27
ちくわ
153
【山椒大夫】高瀬舟に続き鴎外を。安寿と厨子王は七貫文で売られたが…約80万円?妙にリアルだ。また子供だからか?母や姥竹とは対照的に、現実を素直に受け入れる姿が切ない。 読了…ド理系な自分は創作を好まず、事実と論理を愛するが…本作のように艱難辛苦の宿命の中で必死に藻掻く姿には、例え嘘でも心をド突き廻される。勝手な自己分析だが、恵まれた環境で育つ&人生を謳歌出来ている ので余計に憐憫の情が湧き上がるのだろう。実はそんな自分を非常に恥ずかしく思う。安寿と厨子王に「己の力だけで生き抜いてみろ!」と嘲笑されそうで。2024/08/05
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