内容説明
ろうたけた美貌とたぐいまれな才を宿し、大正歌壇に彗星の如く登場し、束の間の輝きを放って突如消息を断った幻の歌人御室みやじ。河内長野の大地主の総領娘として、苛酷な因襲に抗いながら、国文学者荻原秀玲との宿命の恋に全てを賭け、略伝に夭逝と記されたように、自らの生をまで世間から葬り去った、激しい情熱と苦悶に貫かれたその半生を重厚な筆致でたどった長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mariya926
108
山崎豊子さんの作品は心に余裕がある時でないと取り組めない何かがあります。戦中兄の友人の家に疎開し、3か月一緒に生活したとても不思議な御寮人が戦後になって歌人の御室みやじであったことを知ります。しかし御室みやじが昭和2年に亡くなったことになっていたことを知り、昭和21年まで一緒に生活していた歌人の謎に迫ります。山崎豊子さんの本なので実話だと思いながら読んでいました…。それにしても荻原氏とのすれ違いは本当に心が痛みます。御室みやじ、夫、荻原氏の激しく、また苦悩の人生をありありと圧巻な筆力で読ませます。2018/11/29
kei302
58
ご隠居さまのご死去を境にして、御寮人さまのご生涯は、あの一対の玉碗のように、思いもかけぬ波瀾と起伏に満ちたさだめを辿られたのでござります。 老婢よしが語る葛城家の繁栄と衰退。歌人・御室みやじにまつわる謎、明治の大地主旧家の因習や旧民法のしがらみ。どろどろでお腹いっぱい。“旦那様”とまで呼ばれた男の死因が栄養失調だった! 悪魔に一票です。2021/06/05
優希
55
激しい情熱と苦しみが描かれていたように思います。大正時代、彗星の如く現れ、突如姿を消した歌人・御室みやじ。宿命とも言える恋に全てをかけ、自らの生すら消してしまうのが凄いところです。重厚な世界がどこまでも貫かれていました。骨太の恋愛という道もあるのですね。2022/06/29
カピバラ
40
引き込まれる文章。さすがの山崎豊子!歌人みやじの半生を描いた大河小説でした。なんだか、白蓮を彷彿とさせられましたよ、女性歌人だからかもだけど。2016/05/19
とし
28
山崎豊子さんが描く大正時代の歌人である女性の半生。ある女性のたくましさや苦悩が伝わってきました。波乱万丈に時代を駆け抜けた主人公。山崎豊子さんというと白い巨塔や華麗なる一族、大地の子などの大作を思い浮かべますが、本作品はそれらとは趣が異なりますが、山崎さんの思いが伝わってきており読み応えのある作品でした。窮屈な環境の中で凛として生き抜く姿には感銘を覚えました。実際、歌については全くわかりませんが、彼女が詠む歌はどんなものであったのかな、なんて想像しました。きれいなことばかりではなく、この時代は大変ですね。2016/03/13